杉江松恋不善閑居 瑞穂運動場西・長谷川書房

Share

某月某日

東海行の続き。

三重県津市から戻ってきて、名古屋市に入った。市内の古本屋はだいぶ回ったが、まだ未踏の地がいくつかある。その中で気になるのは長谷川書房だった。早川書房の古本どうかしてる編集者のIさんから、あそこはすごいですよ、と教えてもらっていたからである。

長谷川書房は、地下鉄桜通線の瑞穂運動場西駅から、住宅街を北西に向けて10分ほど歩いたところにある。この日は結構雨が強く、坂道を歩いているとずぶ濡れになってしまうほどだったが、仕方ないのである。長谷川書房に行かなければならないのだから。

ようやくたどりついた長谷川書房は飾り気のない外観で、書店というよりは不動産屋のようだと感じた。だが、このそっけなさが逆に自信の程を示しているのかもしれない。

中に入る。真ん中に店を縦に両断する棚があり、正面に帳場、左右に天井までの棚というごくありふれた構造だ。だが、棚を見て驚いた。ちっともありふれていない。いわゆる稀覯書に属する本がたくさん溢れている。しかも無造作に棚につっこんであるように見えるのだ。古書店は稀覯書があればそれだけの棚を作ることが多いのだが、まったくそうではなく、散財している。下手をすると同じ本が二冊あったりもする。まるでお宝を隠しておくから、めいめいで勝手に探しなさい、と言われているようだ。この時点で予定していた30分では探索が終わらないと知る。真ん中の棚には主に文庫が置かれているのだが、念の入ったことにすべて二重であることがわかった。さらに所用時間15分追加。文庫もえらく古いものが多い。昭和の文庫棚が冷凍保存されたみたいだ。

ミステリーなどのジャンル文学や純文学系の他、サブカルチャーも強い。サブカルチャー系の新書が強い古書展は実力者、という私の持論を裏付けるような店舗だった。約1時間ほどかけて、へとへとになりながら探索を終え、勘定をして外に出る。こうした店の常として、バックヤードにもこれは欲しいというような本がたくさん見えた。棚の入れ替わりも多いのだろう。だから一見雑然とした雰囲気の棚なのではないだろうか。名古屋に来たら行かなければならない店がまた一つ増えてしまった。

メールマガジンを始めました。詳細はこちら

Share