少しだけ古いお話。
2025年12月25日は何の日だろうか。
え、クリスマスですか。間違っているとは言わないが、そんな当たり前の日ではない。
第75回東武古書の市の初日に決まっているのである。
今や絶滅寸前、風前の灯となったデパート古本市の孤塁を守り続けているのが、東武百貨店宇都宮店で行われるこのイベントだ。午前10時、開店時刻前に駆け付けずしてどうする、と意気込んで宇都宮に向かった。
9時55分、無事に百貨店前に到着。すると開店を待っているお客さんの群れがある。かつてのデパート古本市ではよく見た光景だ。みなこうやって待機し、午前10時の開店と同時に店内へなだれ込むのである。京王、小田急、伊勢丹といった過去に古本まつりを開催した百貨店では、どこのエレベーターが上階の特設会場に最も近いか把握している猛者がたくさんいた。残念ながら東武百貨店は地元ではないので、そこまでは無理だ。
午前10時、開店の挨拶が終わった瞬間店内に入る。正面にあるエスカレーターの順番を巡って先陣争いが、起きない。どうやら待機のお客さんは別の売り場が目当てだったようで、私が先頭になった。しかし後ろからエスカレーターを駆けあがっていく男性陣がいる。走るな、危ないから。
会場のある階に到着する。知ってる。東武百貨店宇都宮店は奥行があるから、ここから会場まではかなり歩くのである。売り場の店員が品のいい笑みを浮かべながら会釈してくれる。それに愛想を振りまきながら、足はしっかりと動かし続けて会場へ。
前回夏の古本市に来たときは、たしかアントニオ猪木展と同時開催だった。特設会場はけっこう広いので、いつも複数の何かが開かれているのである。古本と中古レコードの即売会に向かう人々と、他の催しの客ははっきりと色合いが分かれている。前者は灰色と茶色と黒、後者はピンクやイエローやブルーの原色だ。
会場に到着すると、すでに結構な人だかりができている。やはり地元のマニアは別のルートからやってきたのだろう。意味もなく悔しくなる。
しかしここで悔しがる意味はないのである。前もって目録で必要な本は注文しているからで、どのみち抽選に当たらなければ買うことはできない。早い遅いの勝負ではないのだ。そしてこの日、抽選はすべて外れていた。どういうわけか、東武古書の市では当たったことが一度もない。希少本ばかり狙いすぎるせいだろうか。
観察してみると、人だかりができているのは主として郷土資料関係であることがわかる。今回は宮城から荒蝦夷が初参加するなど新規組が入ってだいぶ様子が変わった感じがする。とりあえず私の狙いは刷り物なので、吉木書店の棚は絶対に調べなければならない。
こう言ってはなんだが、百貨店古本市の一般棚にある程度の本なら、だいたい持っているか、要不要の見極めはついているのである。よほど珍奇なもの以外は必要ない、ちょっと見るだけ、見るだけ、と思いながら歩いていたら、とんでもないものにぶつかってしまった。
栃木県のかぴばら堂が出していた、「グリーンスタンプ引換品リスト」の1970年版と1971年版である。
グリーンズタンプは買い物をすると金額に応じてもらえるもので、現在はポイント制になっているようだが、かつては台帳に貰った印紙様のものを貼り付けていた。似たものにブルースタンプがあり、どちらもこども時代に集めていた。住んでいた団地にグリーンスタンプを扱うシヅオカヤ、ブルーチップを扱うチサンストアーがあったからだ。似たものにベルマークがあるが、これは主としてPTA活動で集めるので、こどもの物欲とは無縁だった。グリーンスタンプ、死ぬほど集めたっけ。
そして、何にも換えなかったっけ。
あの貼り付けた糊でごわごわになった台帳は、いったいどこに行ってしまったのだろうか。
そんなことを考えながら、二冊とももちろん購入する。写真を見ていただきたいが、1970年代の生活文化資料としても抜群に素晴らしい。これが一冊550円と330円なのはただのようなものだ。片方が安いのは落書きがしてあるからだが、資料価値はそんなことではまったく落ちない。
他にもいろいろ買い物をしてわずか2000円強の支払いだった。
何度も言うがただみたいなものである。喜色満面で上ってきたエスカレーターを降りる。
しかし一つだけ懸案事項があった。この冊子、1970年と1971年のだけ手に入ったのだが、いったい何年から何年まで紙で発行されていたのだろうか。
ある、ことを確認するのは一つ例があれば事足りるが、もうない、あるいはなかった、ことを証明することは難しい。グリーンスタンプ引換品リスト、コンプリートは無理だろう。いや、できるのか、もしかすると。まだ間に合うか。間に合うってなんだ、などと懊悩しつつエスレーターを降りる。




