杉江松恋不善閑居 片浜「書肆ハニカム堂」の偶然

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某月某日

(承前)

静岡市葵区の書肆猫に縁側で、最近沼津にリヤカーを引いて古本販売をしている人が現れたという情報をいただいた。静岡県東部の書店状況だったら、書肆ハニカム堂が詳しいのでは、ということでさっそく東海道本線片浜駅までやってきたのだが。

片浜駅は、北側にショッピングセンターがあって栄えているのだが、南側は少し歩けば沼津から続く千本松原で、その間に旧東海道がある。私は東海道歩きでここを二回通っているのだが、まさかその後何度も来ることになるとは思っていなかった。東海道を西へ、原駅方向へ歩くとすぐ、左側に書肆ハニカム堂が見えてくる。

元も何かの商店だったのだろうか。ガラス張りの戸を開けて入ると、三方の壁が書棚になっていて、左奥が帳場という構成なのだが、右奥にもデッドスペースがある。ここがもともと何だったのか、聞こうと思っていつも忘れてしまうのであった。正面入ったところに背の高い書棚が増えていた。以前は平台だったので、増設されたようである。そこに新刊書籍も陳列されていた。なかなかクセの強い選書になっていて、古本で買えるものがなかったらここから選ぼうと考える。

ハニカム堂はいつ来ても人がいる古本屋で、前回もたしかビールを片手に主と話している人がいた。勝手にビールを持ち込んでいたわけではなくて、そういうイベント日だったのでる。普段からコーヒーも出していて、それを楽しみに来るお客さんもいるようだ。以前は営業日が土日祝日だけだったのだが、最近は平日夜に開けることもある。交流のための地域拠点として機能しているのかもしれない。

沼津市のこの一帯はもちろん一般書店は不在なのだが、小さな独立系書店が文化の火を灯し続けてきた。10年以上前、片浜から西に2ついったところの東田子の浦駅にgood booksという新刊書店ができた。結構広いスペースで、セレクトショップの色が強く、一部は棚貸しで古本も置いていた。以前に伺った話では、そのとき棚を出していたのがハニカム堂のご主人だったらしい。その後good booksは店舗営業から撤退したが、その代わりにハニカム堂ができた。以前は、そこに置かれていた新刊の一部か全部がgood booksの委託だったと記憶している。現在のgood booksとの関係は聞きそびれているが、つまりそういうつながりということである。

現在はそうした形のセレクトショップ型新刊書店が三島や沼津にも増えていて、三島にはginger books caféとYACHT BOOKSがある。これはいずれも飲食店併設だ。もう一つ、三島大社のちかくに10年以上前からえほんやさんがあって、ここは私も一度お訪ねした。沼津には以前から駅から離れた大岡に手芸品も扱う趣味のいいweekend booksがある。それに加えて最近、リバーブックスというセレクトショップが開店している。駅から沼津港への中間点ぐらいにあるので、私はまだ行ったことがない。

というような情報は以前からあって、実際のところはどうなのか、調べてみたいな、と思っていたのであった。ハニカム堂さんに聞いたら、何かわかるのかな。

店内に入ると、ハニカム堂のご主人は接客中だったので、棚を見ながら手が空くまで待った。もう何度も伺っているので、こちらの素姓もご存じである。こんにちは、と声をかけた。あら、いらっしゃい。

「実は調べものがあって来たんです。最近沼津に、リヤカーで古本屋をやっている山仲さんというお店があると聞いているんですけど、どういう感じのお店なのかご存じでいらっしゃいますか」

「ああ、山仲さんですか」

とご主人。

「彼でしたら、ちょうどそこにいますよ」

「ええっ」

ええっ、何それ。ご主人が指差したのは入口の方で、そこを入ったところにある文庫棚のところに、長身の男性が立っていらっしゃったのである。何事か、という表情でその男性がこちらにやって来る。

「彼がその山仲さんです」

ええええっ、何それ。そんな偶然ってあるのか。(つづく)

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