杉江松恋不善閑居 北坂戸「古本あしやま」・霞ヶ関「つまずく本屋ホォル」

Share

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Evernoteに保存Evernoteに保存

某月某日

今抱えている仕事。レギュラー原稿×4。イレギュラー原稿×3(エッセイ、評論、解説)、ProjectTY書き下ろし。

やらなければならないこと。主催する会の準備×1。

仕事読書を抱えて東武東上線に乗る。他にすることがない状態にして読んでしまう計画である。電車に揺られること一時間超、かなり進んだところで北坂戸の駅に着いた。駅前にMACAWという書店があるが、日本語以外の書籍を扱うお店、たぶんヴェトナム系の本の扱いが主ではないかと思われる。店頭に利用者同士が本を交換するためのブックポストがあった。

そこから約四百メートルほど歩いたところにあるのが古本あしやまだ。存在は知っていたのだが、今回が初めての訪問になる。看板のテントが大きく破れているのを愛でつつ中に入る。小さめの店内には中央に二つの棚が置かれ三本の通路が設置されている。右が文庫で、壁際に日本作品、向かい合って海外作品という配置である。旧めの作品が多く、日本作品はどれも百円であった。水上勉の犯罪小説を拾う。その奥には落語など古典芸能関連の書がある。中央の棚は漫画で、左には文学書を中心に、それほど重くない人文科学書が。ぱっと見で新古書系かと思ってしまったが、なかなかどうしてしっかりした品揃え、しかも価格も安くてありがたい古本屋さんだ。こういう店が近くに一軒あったら嬉しいだろう。

駅に戻って再び東武東上線に乗り、今度は霞ヶ関で下りる。東京国際大学のある駅だが、かつてはかすみ書房という実力者の店があった。その霞ヶ関の駅から西に一キロほど行った商店街の中に新しい古本屋ができたそうなのだ。

かなり歩いて、もうこのへんだと思って探しても看板は見当たらない。一軒のカフェの前に百円均一で本が積まれているのを発見する。中にいた女性に聞くと、本は二階にあるとのこと。一階はCDや雑貨の販売もしている。つまずく本屋ホォルに到着である。昔の建物らしい急な階段を上って二階へ。こちらも半分はカフェとして営業している。街路に面した側が本屋になっていて、入口から入って奥の棚は最近多くなった棚貸しの営業、手前にも似たような棚があり、平台には新刊も並べられている。そのほか帳場周辺にもいくつか棚が。本の点数は少ないが趣味に徹した感じでおもしろい。食品をテーマにしたZINEを一冊購入した。カフェでは女性が何やら話していて、レトロ印刷という単語が耳に入った。先日りすとのしゅ店主に教えてもらった、ZINEなどの印刷に強い会社だ。

霞ヶ関の駅まで戻り、一駅先の川越市へ。川越は昔古本屋の街だった。どのくらい古本の街だったかというと、そこで合宿をしてしまえるほどだったのである。古本屋を周って夜は焼きとんという素晴らしい合宿であった。いろいろな本を川越で買った。慶應推理小説同好会の後輩であった古山裕樹氏などは、入学当時は猫をかぶっていたのに川越に無理矢理連れて行ったらたちまち本性を曝け出して、現在に至るも書評家として活動しているくらいである。誰もが心に宿している古本魂に火が点けられてしまう街だったのだ。1988年版の『全国古本屋地図』を頼りに店名を挙げれば川越文庫に坂井ぎやまん堂古書店、希林堂書店、銀魚洞長瀬古書店など、これだけではなくてもっとあったはずだが忘却の彼方でもう思い出せない。盛時には七、八軒はあったのではないか。

死んだ子の歳を数えるような真似をしていても仕方ない。西武線の本川越駅まで行くと、駅ビルのペペ前広場で古本市をやっている。どこかで見たようなテントは先日まで新橋駅SL広場で使われていたものではないか。新橋の古本まつりを三分の一の規模にしたような感じでなかなか見ごたえがある。均一棚から『万年青入門』という実用書を購入し、この日は打ち止め。生まれて初めて乗る西武線の有料特急レッドアロー号で一時間仕事をしながら帰京した。朝日カルチャーで講師のお仕事。

Share

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Evernoteに保存Evernoteに保存