杉江松恋不善閑居 太福独演会@なかの芸能小劇場&浪曲ネクステ&太福五夜初日

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某月某日

今抱えている仕事。レギュラー原稿×8。イレギュラー原稿×5(エッセイ、書評×3、解説)、ProjectTY書き下ろし。

やらなければならないこと。主催する会の準備×1。

外出が続いたもので、昨日はこれの更新が抜けてしまった。決してサボっていたわけではなく、TY書き下ろしを進めていたのである。土日で、残り三本のインタビュー音声起こしのうち二本を本原稿に加えて、あと一本を入れて資料分の情報を足せばなんとか完成稿になるところまで持ってきた。持ってきたところで待ってもらっている〆切が恐ろしいことになったので、今日はこれを片付けなければならぬ。

土日にかけて浪曲会に三つ行っているので、そのことを書いておかなければ。以下敬称略。

一つめ。玉川太福独演会@なかの芸能小劇場・5月14日。

祐子のセーター 玉川太福・玉川みね子

明石の夜嵐 玉川太福・玉川鈴

死神(稲田和浩作) 玉川太福・玉川みね子

どれも初めて聴くネタではないのだが、毎回楽しい。「祐子のセーター」は9月19日に百歳記念の会が決定している玉川祐子主役のお話で、なかの芸能小劇場のお客さんは笑いの芸がお好きな方が多いと思うので、反応も大きかった。「明石の夜嵐」は寄席芸の武器として太福がここのところ集中的に掛けているネタ。地声での舞台向けに試している節もある。これでみね子・明・鈴と、短い間に三人の曲師で聴いたことになる。「死神」は節をつかって本筋を省略するという試みが構成の妙。オチを各自が工夫するネタだが、これは浪曲ならではの性質を利用していて良い。この会は土曜日午前で隔月開催されてきたが、二十回目となる九月でひとまず一区切りだとか。

二つめ。浪曲ネクステ@内幸町ホール。5月15日。

ご挨拶 ご意見番・稲田和浩

近藤勇のうっかり女房(鶴祥一郎作) 東家志乃ぶ・東家美

花一輪(土居陽児作) 天中軒すみれ・馬越ノリ子

染井桜の物語(浦野とと作) 田辺凌天

新・英国密航 サツマ・スチューデント前編(津島唯々作) 東家一太郎・東家美

すべて新作で、若手が唸るといういい趣向の会。どういう事情かわからないが、告知からあまり時間がなかったので、危うく行きそびれそうになった。会場に着いたら、一太郎がもぎりをしていた。手弁当でスタッフも少ない感じ。「近藤勇のうっかり女房」はこれで上演が九回目になるとか。前回聴いたときは啖呵の受け答えで間が今一つと思った箇所があったのだが、この日はそうでもなかった。開口一番の短いバージョンはまだこなしきれていないということなのかもしれない。伸び伸びと演じた。「花一輪」は現代の高校生が1945年8月6日の広島にタイムスリップして原爆投下に遭遇するという話。タイムリミットものでもあるという浪曲では珍しい構成である。これも迫真の演出で聴きごたえがあった。広島の地理が不案内の者にもよくわかるように何かもう一工夫あるといいのかもしれない。そのほうがタイムリミットのスリルが盛り上がるので。いずれにせよ尺が長いので、こういう会でしかできないネタだと思う。「染井桜物語」は玉川奈々福が演じているものの講談バージョン。手際よくまとめていた。それほど聴いていないので無責任なことは言えないが、凌天はブレスが短いのがちょっと気になった。意図的なものなのだろうか。「サツマ・スチューデント」は五代友厚を筆頭に派遣された薩摩藩留学生を描いたもので、「英国密航」では道中付けで語られる船旅を、場面を配して描いた点が聴かせどころ。長尺なので木馬亭などでは途中をカットしないとかけられないだろうが、こういう会のトリには合っている。長くはあるが大作感があるのでそれほど時間は気にならなかったし、途中に挟まったギャグがこの日いちばん受けていた。長い話なので息抜きのギャグは大事。後編も楽しみにしている。

三つめ。玉川太福五夜初日@道楽亭。5月15日。

東海大学落研物語 玉川太福・玉川みね子

清水次郎長伝 次郎長と法印大五郎 玉川太福・玉川みね子

流れの豚次(一)豚次誕生秩父でブー! 玉川太福・玉川みね子

「東海大学落研物語」は現在真打昇進披露目興行が開催されている春風亭柳雀のパーティーで初演されたネタで、実際には再現VTRつきであったという。東海大学落語研究会の歴史を辿る実録もの。この連続公演は三遊亭白鳥作「流れの豚次伝」を五夜連続口演するという触れ込みだったが、実験として元になっている「清水次郎長伝」を一緒にかけたらどのような化学反応が起きるかを試してみると意図がある、ということは当日その場で明かされた。「法印大五郎」は啖呵がびっくりするくらい二代目虎造の間なので、聴いていて楽しかった。未見の人はぜひ聴き比べしてもらいたい。「豚次誕生秩父でブー!」は前半のくだらないギャグが後半ですべて回収されて涙を誘う展開。太福が言うように、白鳥の物語作家としての骨太さがよく出た台本だと思う。

以上、二日で浪曲十席に講談一席。新作を多く聴いたので、なんとなくムズムズする。自分でも書いてみたい気持ちになってきた。

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