杉江松恋不善閑居 書評家カルテルは存在しない

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某月某日

今抱えている仕事。レギュラー原稿×2。イレギュラー原稿×1(調整待ち)、ProjectTY書き下ろし。下読み×1。

やらなければならないこと。主催する会の準備×1。

レギュラー原稿を一つ書き終わった。イレギュラー原稿のインタビュー構成も終わったので、大きな課題がなくなった。今日から『ジャーロ』連載第三回の仕込みを始めると共に、書き下ろしを再開できそうだ。ただ、午後に下読みをしていた某賞の二次予選会があるので、そちらに時間を大きく取られる予定。

今日から『ジャーロ』連載第三回の仕込みを始めると共に、書き下ろしを再開できそうだ。ただ、午後に下読みをしていた某賞の二次予選会があるので、そちらに時間を大きく取られる予定。

昨日ツイッターに書いたことの繰り返しになるし、言わずもがなのことでもあるのだが、何度もでもこれは繰り返すべきことであるので、改めて。

「翻訳ミステリー大賞シンジケート」で月一回更新している「書評七福神の今月の一冊」は、執筆者各人の好きに任せて書いてもらっているので、事前の意識合わせはまったくない。なんでこれを挙げるの、と思うような作品が来ても、編集担当である私が注文をつけたこともない。執筆者の中には何年も会ったことない同士の人がいる。全員が一堂に会したことは、たぶん一度もないのではないか。毎月の原稿はそれぞれの勝手な評価であり、どの作品を挙げる者が多かった、というのも結果にすぎない。そこに意味はない。

ツイッターでは出版社や読書家が、誰がどれに票を投じている、と書いておもしろがってくださる。作品が世に知られる機会が増えることにつながるし、そこから興味を持ってくださる新規の読者も出ると思うので、私も拡散するようにしている。ただし、特定の作品のみを引き立てるつもりは毛頭ないのである。ふた昔前に「書評家カルテル」なる忌まわしい陰謀論がまかり通ったことがあるが、李下に冠を直さず、の精神も重要だろう。何か疑わしいことがあったら、遠慮なく言っていただきたい。念のために書いておくが、もし版元から手心を加えてもらいたいという働きかけがあったときは、企画はそこで終わりにする。

派生形として始まった「道玄坂上ミステリ監視塔」も同様である。あれも何か特定の作品を盛り立てようとする意図はまったくない。複数人が一つの作品を取り上げることがあってもそれはあくまで結果に過ぎないのである。特定の出版社との癒着が発覚したら、こちらも企画は打ち切らなければならない。そうはならない、しない面子であると、両企画とも執筆者を信頼しているのである。

実を言えば、「道玄坂ミステリ監視塔」の企画が持ち上がって受け入れ先を探していた際、最初に提案を持っていったのは某版元であった。しかしそこはミステリーを出している出版社だったので「うちがやらないほうが、公平性が保てていいですよね」「そうですね」という話になり、流したのである。お互いに懸命な判断をしたと思う。Sさん、ありがとう。現在のリアルサウンドは文化系のポータルサイトに徹しているので、その意味ではベストの媒体であった。長く続いてくれますように。

書評は読書家が本を手に取ってもらうために存在する文芸だ。あくまで読書家のためにあるべきで、販売促進に寄り過ぎることは危険だと私は思う。出版社がプロモーションをする際に協力することはあっても、それに隷属して評価を曲げるようなことは絶対にしてはならない。それをしたら読むべき本を薦める基準が失われてしまう。基準を信用できない書評に存在意義はない。あなたはそういう書評家の文章を読むだろうか。

出版社も営業努力をする必要がある。たとえば、何か宣伝塔を立ててでも売らなければならないということはあるだろう。ましてや現在は本が売れないと言われて久しい時代である。しかし、書評家は常に独立した形でそれに協力しなければならないのだ。ここの線引きを誤ると、書評という文芸自体の命取りになる。良書を紹介するという役割のみに忠実であること。それだけが書評家が守るべき唯一にして絶対のルールである。

信用できる書評をお届けするよう両企画とも頑張るので、今後ともご贔屓に。また、第一線で活動している書評家たちを、ちょっぴりでいいので応援してやってください。

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