杉江松恋不善閑居 「東家一太郎いち会」と経堂「大河堂書店」閉店。月村了衛さん講演会

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さようなら、大河堂書店

某月某日

忙しく予定の詰まった一日だった。

朝一番で電車を乗り継いで小田急線の経堂駅に。この日までで大河堂書店が閉まってしまうのだ。商店街の奥に佇む老舗古書店は、閉店の日だからといって特別なことは何もせず、ごく普通の顔をして営業していた。店頭に出された、新入荷を知らせるホワイトボードさえもいつもの通りだ。もちろん閉店セールなどもやっていない。店頭でまず、ジェイムズ・サーバーの絵本を一冊拾った。持っているかもしれないが、いいや。

丹念に店内を見て歩く。中央に絶版文庫の詰まった棚があって、お店は左右に分断されている。右のエリアは手前が人文系、奥が理工系の強い硬い本のエリア。こちらの関心が強い古典芸能系の本がごろごろしているから困る。吉沢英明編著『講談明治期速記本集覧』(私家本)があったので資料としてありがたくいただく。奥のコーナーには大型本が多いのだが、そこに浪曲レコードのセットがいくつか。さすがにこれから出歩くのにレコードは、と躊躇していたらNHK製のカセット集も発見。なんでもあるな。このNHKのやつはブックレットが充実していたので買うことにした。テープが再生できなくても、これなら価値がある。左エリアは小説系の文庫やコミックが多いのだが、紙ものがふんだんに積んである棚がある。もしかすると浪曲関係のビラなどが入っているかもしれず、結構むきになって探していると、出なければならない刻限になっていた。慌てて会計を済ませる。5650円だったが、きりよく5000円に負けてくれた。ありがとうございます。

これで最後と思うと名残り惜しいがやむをえぬ。小田急線に乗って先を急ぐ。目指すは浅草木馬亭である。この日は東家一太郎さんが年に一回開いている独演会・いち会の日なのだ。ほぼ満席の木馬亭にぎりぎりで滑り込む。

山の名刀 東家一太郎・伊丹秀敏&東家美

節劇「瞼の母」 東家一太郎&猪馬ぽん太&関遊六・東家美

赤穂義士外伝 腹切魚 東家一太郎・東家美

今回のテーマは「師から弟子へ~継承」とあり、東家一太郎・美のお二人がそれぞれの師から継承したものをしっかり見せることが主眼であった。「山の名刀」は一太郎さんの師・二代目東家浦太郎さんの得意ネタであって、それを美さんが三味線の師匠である伊丹英俊さんと二丁三味線で弾くという趣向。三人の息がぴったりで、感情表現を十分に入れた一太郎さんの節が満席の管内に響き渡った。続く「節劇」は、かつて浪曲最盛期には人気があったが、現在では廃れてしまったもの。それを人気の外題でうまく見せ切った。昨年の節劇では登場人物が多くてややどたばたした印象があったのだが、今回は猪馬・関のお二人に登場人物を絞ったことで緊密な舞台になった。最後の「腹切魚」は、一太郎さんが浦太郎邸の掃除を手伝った際に出てきたオープンリールが元になっている。それは大師匠である東家楽浦さん(故人)が吹き込んだもので、苦労して再生したはいいが、最後の部分が聴けなくなっていた。三味線の美さんと二人して最後の大バラシを作り上げて今日に至ったものである。継承と連携の技と気概がすべての演目に満ち溢れており、充実した二時間半であった。

終演後はダッシュで外に出て池袋を目指す。十七時から月村了衛さんと公開対談なのだ。乗換駅でたまたま本郷三丁目の大学堂書店に寄ってしまうというアクシデントはあったものの、無事に三十分前には到着し、月村さんとも事前打ち合わせができた。会場も大入りで、興味深いお話が伺えたと思う。終演後は尽きぬ話もあったのだがこれまたダッシュで帰宅し、朝までお仕事。移動ばかりの一日、おしまい。

ぬう、こんなところに罠が。

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