チミの犠牲はムダにしない! その8『3P(トリオリズム)』叶恭子

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チミの犠牲はムダにしない!第8回『3P(トリオリズム)』叶恭子(小学館)

 寒い冬、背中を丸めて歩いていませんか? ――というわけで、今回は背筋をしゃんと伸ばしてくれる、人生の美学を説く本を紹介しようと思ったのである。しかしあれだ、あまり無いものですね。読むだけで背筋が真っ直ぐになるような本というのは。素晴らしい人生読本というのは、私の定義では「堂々と素っ裸になって、しかもその裸がかっこいい」本である。なんやかんや理由をつけてうわべを飾る態度というのはいけません。がつんと全裸前貼りなし! そういう本を読むと、しゃきんと背筋が伸びるはずである。全裸で街に駆け出して行きたくなるはずである(捕まるけど)。

最初に手に取ったのが伊原剛志『志して候う』(アメーバ・ブックス)だった。あの千葉真一主催のJAC(現JAE)出身で、アクション俳優から脱皮して大きく活動の幅を拡げた伊原は、現在はお好み焼きチェーン「ぼちぼち」の経営者としても頑張っているそうだ。どうも入れ込むと夢中になってしまう性分だとかで、そのために「ぼちぼち」の共同経営者になってくれるはずだった親友が去っていってしまったり、子供のころに通っていたお好み焼き屋に味の秘密を教えてくれと言って押しかけて行って怒られたり(当たり前だけど)したらしい。それでもお好み焼き屋は大成功しているようで、まずはめでたいというもの。しかし「素っ裸度」は比較的低く、JAC時代に先輩と付き合っていた(一期上だけど年は一つ下って、誰だ? 『宇宙刑事シャイダー』のアニー役で有名な森永奈緒美がその条件に当てはまるけど、違うかな)とか、高校生のときに童貞を捨てた相手はナンシーさんという源氏名のソープ嬢、とか、その程度なのである。背筋は「ピ」程度かな。

次に手を出したのが、奥田瑛二『男のダンディズム』(KKロングセラーズ)。帯に「ビビッていた心を、自分の力で輝きに変える強さを持っているか」とある。強気だ。ページを繰ると「ダンディズムは、太鼓腹じゃないことを言う」とか「人生について思うたび、クソ場(注:ウンコをする場所)というものはつくづく大事だなあと思う」などと俺節ワードが連発して「おおっ」と思わされる。映画「五番町夕霧楼」で金閣寺を燃やす青年の役を演じた際、演技にのめりこむあまりに自宅で「マッチ棒をやぐら状に組んで積み上げ」点火しては「燃えるマッチのやぐらを見ながら、ニターッと笑っていた」という話や、「生まれたときから、中学校入学の前夜まで一日も欠かさず、オネショしていた」ため「お祖母ちゃんには、オチンチンの先にモグサやニンニクのお灸をすえられ」ていた話、早稲田大学で講演をした際学生に「どうすれば、かっこよくなれますか」と訊かれて「君はブサイクだから、まずそこでだめだろう」と即答した話など、いいエピソードもいろいろあるが、安藤和津という世話女房がいながら他に女を作りまくった当時の話がまったく書かれていないのは減点対象である(ちなみに和津と結婚したときの仲人は総理になる前の海部俊樹)。背筋は「ピピ」程度。

続いて読んだのが、石田純一『マイライフ』(幻冬舎)。ご存じの通り浮気報道の記者会見で「不倫は文化だ」と発言したばかりに子供は幼稚園の受験に失敗するは、妻からは離婚されるは、たくさんあったCMはすべて降板させられるは、まさにどん底へと落ちた経験を持つ彼なので期待した。果たして本書では結構赤裸々なことが書かれていたのだ。

石田純一も今年で五十一歳になるので、加齢臭やら毛髪の減少やらが気になるお年頃なのである。部屋でくつろいでいたところ、当時同棲していた長谷川理恵が入室してきたと思ったら、いきなり「ごめんごめん、クサイから、少しあけるヨ!」と窓を開けだした話だとか、ひさしぶりにドラマでアクション場面を演じたら、水をかぶった頭髪がぺったりになり、ただのヘロヘロオヤジになってしまった話だとか、正直で好感が持てる。この本では、昨年長谷川理恵との同棲を解消し(フラれ?)た石田の、現在の心境が日記形式で綴られているのだが、上記の「老い」に対する不安以外の内容は、二つの要素に大別することができる。すなわち「リエへの未練」(まったく諦めてない!)と「新しい恋人が意のままにならないもどかしさ」だ。

新しい恋人・サヤは二十五歳の法科大学院生で、彼とはお食事会で知り合った由。お食事会というのは下品な言葉遣いを嫌う石田が言うところの要するに合コンだ。まあ、恋愛は個人の自由なのでどんどんやっていただいて構わないのだが、問題だと思うのはそのメールを公開していることであった。サヤから貰ったメールを載せていることがまず良くない。プライバシーの侵害じゃん。しかし決定的にまずいのは、石田からサヤに送ったメールの方だろう。その文面を掲載しておくので、各自熟読玩味すること。

いつまでもつれないサヤぴょんへ。前回のメール、ちょっとだけ訂正させて。いつもつれないサヤぴょんへ→美しくて、オシャレで、楽しくて、お茶目なサヤぴょんへ☆☆J・I

会おうか? HOW ABOUT 5TH OF AUGUST☆ 20から24日まであいてるけど…何か考えない? いつまでもつれない(!?)サヤぴょんへ♪J

高松に来ています☆☆ セカチューの舞台になった遊園地でロケなんだ。世界の中心でサヤーって叫びたい エンドレス サマーより

「エンドレス サマー」って何だ? ある意味、これも自分の裸体をさらけ出すということなのだろう。その調子で行け、エンドレス サマー。でも背筋度は「ピ」止まりね(若手芸人のトップ3にガレッジセールのゴリが入るという笑いのセンスも減点対象)。

どうも背筋がぴんと伸びきる本は見つからない。やはりこのご時世にそういう一本筋の通った本というものは見つからないのかと諦めかかったところで、一冊の本に出会った。叶恭子『3P』、これが奇跡の背筋伸ばし本だったのである。未読の人間は今すぐ本屋さんまで走った方がいいだろう。

まず何といっても素晴らしいのが、作者の価値観が並の人間のそれとかけ離れているところだ。同じ地平に立っていない。はるか殿上人の視線である。恭子様とお呼びした方がいい。なにしろ冒頭から「その時、わたくしは彼の自家用ジェットで、カリブ海上空を飛んでいました。行き先は彼が持つ島。ヴィラでの数日間の滞在にご招待されたのです」だもんなあ。その島では滑走路に二本のピンク色が引かれていた。何かと思ったら、恭子様を出迎えるために滑走路にバラの花弁が敷き詰められていたのだ。開巻早々おなか一杯。ここまでかけ離れていると、もはやファンタジーの領域に入ってくる。

ライフスタイルプロデューサーという肩書きからは何が生業なのかさっぱりわからないためか、下々の者から中傷されることも多い恭子様なのだが、この本を読めばそういうやっかみがいかに無意味であるかよく判るだろう。恭子様のお仕事はズバリ「愛を与えること」、それも「高価な代償とひきかえに」である。「わたくしに投入される財力とは、愛情のバロメーター。当然のことながら、愛情が大きければ、財力も大きくなります」「マネーの快感とはメイクラブの快感にとても似ているのです」と断言し、男性を選ぶポイントとして「ルックス」「資産状況」「無償の愛」の三つを上げる恭子様の価値観には、実にしたたかである。なにしろ最高のプレゼントを受け取った後に「あなたがプレゼントをくれたことはうれしいし、いまはとっても幸せ。だけれども、あなたがお金も何もかもなくなって、みすぼらしくなってしまった時、わたくしはあなたを愛せなくなってしまうでしょう。その日はいつ来るかはわからないから、いまから覚悟しておいてくださいね」と男にはっきり説明するくらいなのである。そのため男たちは、競って恭子様にプレゼントを贈ろうとする。「ロールスロイスとベントレーとメルセデスのオープン3台」から好きなのを選ぶよう言われるくらいは日常茶飯事で、「土地や不動産の権利書や、株券などの有価証券」がもっとも嬉しいプレゼント。時にはハーフミリオン(数千万円以上)のキャッシュの塊でできたクリスマス・トゥリーをいただいたこともあるという。キャバクラ嬢にプラダの時計一つ贈ったぐらいで偉そうな顔している男子は反省するように。

恭子様がそうしたセレブリティーと出会う場は、やはり海外のパーティーであるらしく、秘訣は「3秒以上の熱い視線で相手を見つめながら、何かを相手が感じとった瞬間にすぐ目線をそらす」ことだそうだ。そうすると相手は「ふたりでスペシャルな夜景を見ながら極上のソーテルヌでも飲みませんか?」と声をかけてくるのである。海外のカジノ・ホテルのラウンジで飲んでいると「お部屋に行ってブランデーでも飲まない」と声をかけてくる娼婦がいるが、あれとは逆なんだね。恭子様ほどになると、視線で相手を操って声をかけさせることができるわけだ。

本の後半では、恭子様が男性を虜にする閨房術の数々が明かされているのだが、おそらく十八歳未満の良い子も読むと思われるゲッツWEBに載せる文章なので詳細は省いておこう。前戯のときには猫がネズミを捕まえて転がして遊んでいる感覚を意識するとか、下着はつけない習慣だがお互いを拘束して遊ぶためにストッキングは寝室に常備してあるとか、興味深いことがたくさん書いてあります。特に恭子様が挙げるペニスの習性六ヶ条というのが傑作で「持ち主の意に反して急に活動することがある」「持ち主の女性の好みと、ペニスの女性の好みが一致するとは限らない」「朝、目覚めが持ち主より早く、先に起きていることが多い」などと、まるで学者のような観察ぶりなのである。

本の題名になっている「3P」とは、そのものズバリ、三人で交わることを意味している。恭子様はいちどきに二人の男性の相手をされるときがある。一人を放置すると「いまどうしているかしら? 大丈夫かしら?」「ここにいないのはかわいそうだわ」などと考えてしまうからだ。だから一緒に愛を注ぐ。なんという寛大さだろうか。彼女の明けひろげな姿勢を指して眉を顰める向きもあるだろうが、ここまで揺らぎのない価値観を持っているという点には敬意を表するべきである。逆に恭子様は、一般女性の恋愛間に疑問を呈してもいる。「わたくしは“肉体的な間に合わせ”は理解できますが、“精神的な間に合わせ”は百害あって一利なしだと考えています」と恭子様は言うのである。ちょっと淋しいだけで誰かと付き合いたくなる、誰かと付き合っていないと不安で仕方がない、というような症状を抱えるあなたは、特にこのくだりをよく読んだ方がいいですよ(石田純一にもぜひ)。

もちろん恭子様は、少しも出し惜しみせずにご自分の全裸をさらしている。アンダーヘアをすべて除毛する、いわゆるブラジリアン・スタイルにしており、その部分には「太ももを開くと、ブルー、レッド、グリーンの色で彩られた美しい羽を広げている姿が全開になるように、羽の下部は内ももの奥まで広がっているようなスペシャルなデザイン」のバタフライの刺青があることも告白しているのだ。彼女を慕う男性が、同じように刺青を入れようと「叶」の文字を彫り付けたのはいいものの、「“叶”のはずが、○+になってしまっ」たという間抜けなエピソードが紹介されているのもポイント高く、まさに背筋はピンコ起ち状態である。全裸で街に駆け出せ(刺青つきで)!

本書のお買い得度:

伊原剛志、奥田瑛二、石田純一。三名の著書の代金合計は3,900円。『3P』は1,300円。3冊の3分の1の定価で、『3P』は3冊の3倍は楽しめます。絶対に買うならこっち! 余談ながら、この本で気になるのは「妹」である美香さんの存在である。あるときは美香様が性交に没頭するあまりトランス状態になってしまい、妹の美香さんが「お姉様、生きてますか?」とドアをノックしに来たという。恭子様が閨房に籠もっている間(営業中?)、美香さんはいつも別室で待機しているわけなのでしょうか? また、恭子様は相手の男性に了承を得た上で、営みをビデオ撮影することがあるらしく、相当数のプライベート・ビデオ・コレクションがあるのだという(流出したらえらいことに!)。その撮影役を他人に頼むこともあるそうだが、十中八九美香さんだろう。マネージャーからカメラマンから、さまざまな役を押し付けられる美香さんの本音、私生活にも興味が湧いてくるというものである。ぜひ続篇「4P」を!

初出「ゲッツ板谷マンション」2006年2月6日

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