昨年は時間があれば大阪に行っていた気がする。盛夏に訪ねたのは、8月16日に真山隼人・沢村さくらコンビが大阪で「巷説百物語 小豆洗い」の公演をしたからである。原作者の京極夏彦氏が登壇されるので、当然ながら口利きをした私も大阪に行くことになる。
公演当日は慌ただしく過ぎ、翌日になった。一日空いていて特にしなければならないこともない。
そうだ、奈良へ行こう、と思った。京都ではなくて申し訳ない。奈良である。この前に一回奈良を訪ねていたのだが、あまり時間がなくて少しも回れなかったのだ。一日あるなら奈良市内をうろうろしてみよう、と思った。泊まっていたのは天王寺駅に近いところだったので、近鉄でもJRでも一時間もかからない。
JR奈良駅を出て、まっすぐ東へ向かった。古い町並みの中をとぼとぼと歩く。家はほとんどが平屋か二階建てなので、空が広く感じる。色褪せた看板を掲げる仕舞屋の前などを往くうちに、古書柘榴ノ國に着いた。この店は前にも来たが、開いていなかったのである。
建物の二階にあるので、薄暗い階段をゆっくり上がる。
扉回りから古写真が飾られていて、もうすでに印象的だ。中に入ると左の奥に窓があり、そこの帳場にご主人が座っていた。挨拶をして棚を見始める。横に長い店内は真ん中の棚で前後に仕切られており、奧が文学、手前はサブカルチャー色の強いゾーンというところか。古い刷り物や写真類が入ってすぐのところに置かれており、まずここから見なければならない。この時点で一時間は必要だろうと目星をつけた。背中のリュックがあると棚に当たって邪魔なので、断りを入れて床に下ろす。
文学棚は帳場に近いあたりに昭和の作家がずらりと並んだ一帯があり、そこで石原慎太郎『狂った果実』の初版と、藤原審爾『花びらの肖像』を見つけた。どちらも持っている可能性があるが、買うだろう。安いもの。
サブカルチャーゾーンはさらに興奮させられる品揃えだった。事件ものやアウトロー、性風俗系の品揃えに努力しているのがわかる。それ以外の軽いもので芸人本やプロレス本もあり、西川のりお『まかせなさい 西川のりお主義』と『アンドレ・ザ・ジャイアント 俺こそザ・ワールド』を発見した。後者は新間寿著になっているが、絶対嘘だろう。
さてこんなものか、と思って勘定をしようとしたとき、性風俗のコーナーに信じられないものを見つけた。『おんなすもう』という題名で、小箱に入っている。造りからして私家版で、一般に流通したものではないはずである。これは買うしかない。一度見逃したら二度と会わない本だ。値段を聞いたら勘定が一気に倍以上になったが仕方ない。女相撲だもの。嬉しい気持ちと本を抱えて扉を開け、暗い階段をまた下りる。
後で確認したら、『おんなすもう』の著者は平井通であった。別名・平井蒼太、江戸川乱歩こと平井太郎の弟である。ええっ、乱歩の弟の本だったのか。ウィキペディアを見ると、『見世物女角力志』として1933年に私家版が刊行され、有光書房から1972年に復刻版が出されたそうだ。私が買ったのはそっちである。平井蒼太は性風俗研究者だったから、その観点から書いたものなのだろう。
今、日本の古本屋サイトに出ているかと思って見てみたが、ページはあったものの在庫切れになっていた。一度は通信販売にも出したけど、売れてしまったようである。どこの店かと確認してみたら、柘榴ノ國とあった。私が買ったのだ。
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