兵庫行の続き。
王子公園駅を後にして、またもや西に向かう。神戸三宮駅で乗り換えて、神戸高速船で新開地駅まで。実はここが最終目的地だったのである。新開地駅には兵庫県唯一の定席・喜楽館がある。その昼席を聴くのが目的であった。
しかしまだ開演まで少しだけ時間がある。喜楽館のある新開地商店街をまっすぐ行くと、かなり先に上崎書店がある。老舗の古本屋で、眺めるだけでも見ておきたかった。
町の古本屋だからそんなに時間はかからないだろう、と高を括っていた私が悪かった。均一棚を見たときから嫌な予感はしていたのである。珍しいハヤカワノヴェルスが100円で出ている。表紙がついていないからその値段なのだが、持っていなかったら絶対に欲しくなるだろう、というタイトルがごろごろしているではないか。こんな店に実力がないはずがない。入ってみて予感は的中した。なんだこれは。
店はほぼ正方形なのではないだろうか。間口が横に広く、二間分はある。その幅だけ奥行もあるのだが、縦に並んだ書棚により四本の通路ができており、両脇には美術書や宗教書など人文科学系の濃いところが並んだ棚がずらりと整列している。しかも棚の手前には平台があり、雑誌や刷り物などがわんさか積まれているのである。当然だが浪曲チラシや番付があるかもしれないので、すべてチェックしなければならない。店の右側奧は成人向けのコーナーになっているようだが、その手前の列には芸能書のコーナーもあった。店の手前側、入口から入って左側のあたりにはさまざまなサブカルチャーの本が無造作に積まれている。昭和のプロレス本やファミコン時代の攻略本など、その趣味の者が見たら目の色が変わりそうな山である。
これはちゃんと見れば一時間以上はかかる。
そう判断して、残念だが時短バージョンに目を切り替えた。棚の間を高速で移動しながら見落としだけはしないように気を付けて歩いていく。守備範囲外のもの以外にはあまり目をやらないようにしていたのだが、アニメのセル画が詰まれているゾーンだけちらっと見てしまった。積んであるものを掘り起こしていて、口から心臓が飛び出そうになった。なんというお宝を置いているのか。もしかして目星をつけていてこれを買おうと思っている地元の人がいるから何かは書かないが、五桁の値付けは決して強気ではないと思った、ということだけ書いておこう。精算を済ませて店を出、急いで喜楽観に戻る。
開演時間を30分間違えていたことに気づいた。おかげで二席聴きもらしてしまったが、無事お目当てには間に合った。実はこの週、「阪神電気鉄道120周年記念 兵庫県民ウィーク」ということで阪神電鉄が全面協力した特別番組だったのである。中入前には阪神電鉄に関するスライドトークがあるほか、一週間通しで真山隼人・沢村さくらが登場し、連続物を読むという。
梅田からこの喜楽館のある新開地まで、二人連れが阪神電鉄に乗ってやってくるという内容だ。上方落語なら喜六・清八と名乗るところだが、現代の話である。この日はちょうど千秋楽で、無事に喜楽館に着いて大団円となった。浪曲ファンは私だけかも、と思っていたらさにあらず、一心寺浪曲寄席の常連で私が勝手に「最高やおじさん」と読んでいるお客さんがいらっしゃってびっくりした。濃い浪曲ファンだなあ。
トリは笑福亭松喬さん、生で聴くのはいつ以来だろうか。お客さんを大いに受けさせて終演。終わって出てきた真山隼人・沢村さくらさんと少し話す。喜楽館はいい会場なので、また来たいものである。(つづく)



