某月某日
兵庫行の続き。
六甲の口笛文庫を出て、さらに西に向かった。目指す場所は同じ阪急線の王子公園なのだが、今来た急坂をもう一度上るのはけっこう面倒くさい。神戸の人はこれを毎日上り下りしているわけか。足がさぞや丈夫になるだろう。調べてみると、JRのほうへさらに下ったところに停留所があり、王子公園に近いところまでバスで行けるらしい。となればバスである。急いで下っていったところ、すぐに便を捕まえることができた。
十分ほど乗って下車する。目指す古本屋ワールズ・エンド・ガーデンは王子公園駅から高架沿いに下りていった坂の途中にある。やはりここも坂なのだ。とろとろと歩いていったら、五分ほどで店が見えてきた。
だが、空いていない。店内の照明は点いているのだが、扉が開かないのである。
こういうときには慌てず、スマートフォンを取り出す。買い取りに出かけているなら店の明かりは消していくだろうから、どこか近くにいるはずである。鳴らすと、すぐに出てくれた。固定電話を携帯電話に転送しているのだろうか。慌てたような声の男性が、すみません、30分ほどで戻りますので、と言った。古本屋はワンオペが基本だから、こういうこともよくある。後で伺いますので、と伝えて電話を切った。
それならばそれでやることがある。実は王子公園にはもう一軒古本屋があるのだ。開店はごく最近で、たびたび書店という名前らしい。
駅のほうへ引き返し、東に伸びている商店街のほうへ歩く。駅を越えたところで出くわす川はけっこう立派で、上流を見ると堰のようになっている。私は王子付近の景観を思い出した。後で調べたら、青谷川というらしい。
そこからどんどん商店街を歩いていく。ちょうど時分どきということもあってか街に活気がある。シャッターの下りているところはほとんどなくて、元気のいい商店街だ。しばらく歩いたところで左に曲がる。角から一軒置いたぐらいのところにあるのが、まちまち書店である。
GoogleMapで見たところでは、書店という表記だったが古本6:新刊4という感じで置いてある。セレクトショップに分類される店だろうが、それほど大きくないこともあり、気安い街の本屋という印象だ。先客の女性はよく来るらしく、今日はこれにしようかな、などと言いながら物色し、小説本を買って出て行った。店に入って初めて気づいたが、夜はバー営業もしているらしい。本を読みながらお酒が飲める、ということだろうか。
せっかくなので何か買っていきたいと思い、夏目漱石の『二百十日・野分』(新潮文庫)を購入した。漱石のこのへんの作品が好きなのである。外に出て、元来た道を引き返す。(つづく)



