杉江松恋不善閑居 旧聞 今津・蝸牛

Share

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Evernoteに保存Evernoteに保存

某月某日

兵庫行の続き。

街の葉を出て、武庫川駅に戻る。そこから阪神本線にまた乗って、今度は今津駅まで。

駅を出て、北東方向に歩いていく。ちょうど阪急今津線と沿う形だ。すでに日は暮れきって暗くなっている。驚いたのが、出くわす居酒屋という居酒屋がすべていい感じで、一度は入ってみたい名店ばかりだったことだ。もちろん外から眺めただけなのだが、長年培った勘がそう告げている。チェーン店風に見えるものあり、家族経営の店舗っぽいところあり、いろいろな経験をしてきた人が終の棲家と決めて出したのだろうと思われる店あり。今津に住んでいたら一日一店に顔を出しても一週間では訪ねきれないだろうなと思った。今津の方が羨ましい。

しばらく歩き、ふと横を見ると店頭前の均一棚が屋内の明かりに照らされているのが見えた。到着、古書籍蝸牛である。

店頭の棚を見て驚いた。他に持っていけばもっと高値がつくだろうというような本が、ぽんと投げ出されている。ミヤコ蝶々の自伝とか、持っていなければ確実に買うところだ。これは期待できる店だぞ、と胸を弾ませながら店内に入る。

店は横に長い日の字をしていて、入口に向かい合って中を横断する形で棚が置かれている。それを回りこみながら見ていくことになる。その棚がまずもって濃く、左側に劇場チラシを収めたクリアファイルが置かれているので、まずはそこから見なければならない。その上には新書や文庫などが並ぶが、性文化に関するコーナーなどもあり、侮れない。

裏にまわると、壁際の棚は右から郷土関連、諸文化。内外文学といったところ。店内を横断している棚は、裏側は主として文庫の置場になっているが、その下が凄い。明らかに戦前のものとわかる本が小箱で仕切られている形で積まれている。絶対にこれはお宝があるはずだ、と勇んで見ていると、店主が「見にくいでしょうから片付けましょうか」と声をかけてくれた。

実は通路の奥に本の山が積み上がっており、それを避けながらの作業だったのだ。「今日買い取りがあったんで、そこに積んでしまいましてね」と苦笑いしながら店主はそれをどけてくれる。さあ、困った。そこまで親切にしてくれたら空手で帰るわけにはいかないではないか。しばらく棚漁りに精を出した結果、持っていない徳川夢声の本を発見、無事に購入することができた。外に出るともう表は夜そのものである。

それにしても奥深い店であった。居酒屋も充実しているし申し分ない街だ、今津。また来ることもあるだろう。そのときはどこか一軒、迷いながら入ってみたいと思う。

Share

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Evernoteに保存Evernoteに保存