杉江松恋不善閑居 行けなかった鳴海書房と中京競馬場・安藤書店

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某月某日

鳴海の伯母宅で午前3時に起床する。実は旅先に分厚いゲラを持ってきていた。ゲラというか刷り出しか。次に出す単著のもので、初校にする前にだいぶ削らなければならない。その著者指示が終わっていなかったので、作業である。赤のボールペンを使って、収録しない原稿をばっさり切っていく。連載時の40%ぐらいになってしまうが、これは仕方ない。本として出せなかったら意味がないのだから。縮めてみたら、引き締まった内容になって、これはこれでよかったと思う。赤を入れた刷り出しはこのあとポストに投函した。

10時前に伯母宅を出た。実はGoogle Mapを見ていて、ここから数分の場所に「古本と文具 鳴海書房」という店があることに気づいたのである。知らない店だし、古書店組合にも入っていないのではないかという気がする。表示された営業時間は11時からなのだが、とりあえず行ってみる。店の前まで来ると、やはりというか当然というか、シャッターは降りていた。これは仕方ない。昨日鶴亀2号を訪れたあとにそのまま来ればまだ開いていたのだ。18時までの営業なのだから。己の迂闊さを悔やんだがどうしようもない。諦めて名鉄の鳴海駅へ向かう。

本当なら西へ向かわなければならないのだが、あえて東へ。鳴海駅から3駅行ったところに中京競馬場という駅がある。そこに未訪の安藤書店があるのだ。以前はもう少し離れた場所にあったような気がしたのだが、移転したのだろうか。

駅を出ると、北側目の前に店がある。おお、あった。しかし、シャッターは開いているものの店の灯りは点いておらず、人気も感じられない。店頭の均一棚は見られるのでこれで訪問したことにしようかと思ったが、気を取り直して駅前の喫茶店に入る。ここで張り込んで、店が開くのを待つのだ。仕事読書をしていると、いつのまにか熱中したものと見えて11時になっていた。さっきと比べるとシャッターが前回になっており、ここから見ても店内が明るくなっている。開店したのか。急いで勘定を済ませて喫茶店を出る。

安藤書店に入ると、すでに先客がいて時代小説の文庫棚を見ていた。店は真ん中に天井までの両面棚があって仕切っている振り分け式の構造である。右側は軍記・歴史から始まり、映画・芸能、美術と続き、史学などの人文科学書になっていくという流れだ。奥の壁から引っ込んでもう一室あり、そこが帳場になっているようである。美術棚の中途で小学館の『プロレス入門』を発見する。初版を探し続けているのだが、これは日本プロレスの分裂を受けての改訂版だろう。ぱらぱらと眺めたら、文章は初版の流用で、一部加筆されているという感じだった。これでも読むことはできるので、購入を決める。1500円は安い。

真ん中の棚は右側が文庫で、左側は奥に郷土資料のコーナーがある。ここが魚影濃く、しげしげと眺めた。『屋根神』という東海地方固有の宗教建造物についてのリーフレットがあったのでこれも買うことに。1000円。左の壁際はずらっと日本文学の棚である。

帳場に行ってお金を払う。ご主人に「競馬ですか」と聞かれた。スーツケースを持っていたので旅打ちと思われたのだろうか。「いや、これから旅行なんです」と曖昧に答える。本当はあなたの店に来るために中京競馬場駅に寄り道しているんです、とは恥ずかしくて言えない。(つづく)

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