某月某日
今抱えている仕事。レギュラー原稿×3。イレギュラー原稿×4(エッセイ、書評、文庫解説×2)、ProjectTY書き下ろし。
やらなければならないこと。主催する会の準備×1。
のせ書店を出て、駅の南側へ。ここから西側へ向かって坂を下りていくと、太い新潟燕線という道路にぶつかる。それを下ってしばらく行き、県道16号線を超えた先の左側にあるのが数年前に開店した古本屋・本の音だ。
建物自体はそんなに新しくないのかもしれないが店の外観は小綺麗で、この日歩いてきたどの古本屋とも異なる。扉を開けて中に入ると、横長の店内が目に入った。入ってすぐ左に均一棚。右に絵本や美術書の並ぶ低い棚があり、その奥にも棚がある。左側の奥にも棚。その手前には文学系や新潟の本を置いた島があり、その裏は映画・音楽系が主である。左奥のコーナーには芸能や落語を主とした棚があって、小沢昭一の本がまとめて置いてある。これはもう呼ばれたとしか思えない品ぞろえだ。
とりあえず均一本の棚から水上勉『わが文学 わが作法』(中央公論社)を。最近水上勉について調べているのだ。これは自作について語った文章を集めた本である。続いて、芸能の棚から倉田喜弘『明治大正の民衆娯楽』(岩波新書)を選ぶ。倉田は近代芸能史の専門家だ。この本は持っているかもしれないが、目につくところにないので買ってもいいのである。芸能本はありすぎて選ぶのに苦労する。とりあえず持っていないと思われる犬塚弘『飄飄として訥訥』(労働旬報社)と喰始『谷啓 笑いのツボ人生のツボ』(小学館)を。クレイジーキャッツ特集である。とりあえずこれだけにして帳場に向かう。なんだか慌てた様子でやってきたおじさんが私の後に芸能棚を見始めるが、足元の本に蹴躓いたのかよろけたのかで棚に倒れかかる。大丈夫かおじさん。
勘定を済ませて立ち去ろうとしたが、ふと気になって映画・音楽の棚をもう一度見る。小林信彦の対談集『映画につれてって』(キネマ旬報社)を持っていたかどうかがわからなくなり、結局買ってしまった。ダブっていたらそのときに考えよう。仕方ない。
二度目のお勘定をしながら思いついて店主に、新潟出身の浪曲師・寿々木米若に関するものはないか聞いてみたが、空振りだった。まあ、そうだろう。米若関係の資料があるとすれば、相当古い店だと思うが、そういう老舗はもう新潟市内には残っていないのではないか。とりあえずお礼を言って外に出る。さあ、ここからどこに向かうべきか。時刻は午後五時少し前だ。