杉江松恋不善閑居 同人誌のこと・その7『博麗霊夢おはようございます』

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装画:くまさん(赤色バニラ) 画像からとらのあな委託ページに飛びます。

本当ならばこちらをその6で書かなければいけなかったのだが、『おやすみ、博麗霊夢』と順番が入れ替わってしまった。2016年の「小春小径」で出した本である。表紙にあるように東風谷早苗が一方の主人公になっている。

『博麗霊夢おはようございます』は原作の『東方鈴奈庵』を意識した話である。ちょうど易者のエピソードをやっていた時期だと記憶しているが、ZUN氏の霊夢についての考えがほの見えたような気がしてあれはおもしろかった。この本はそうしたこととはあまり関係ないのだが、博麗の巫女が幻想郷の中で果たしている役割ということは常に意識しているので、関係がないわけでもない。

〈博麗霊夢の日々〉は基本的に誰かを悪者にしないつもりで書いている。そういうわかりやすい悪というものは世の中に存在せず、誰かがやったことがまわりまわって他の誰かにとっての悪になるようなものが社会だと考えているからだ。『さようなら、博麗霊夢』のようにわかりやすい敵が書かれているものはむしろ例外である。もっともあれも、読んでいただければわかるはずで、本当の悪はあの中で糾弾されている者ではない。

『博麗霊夢おはようございます』もある偶然からたいへんなことが起きてしまうという流れの話だが、事件そのものよりも東風谷早苗という少女を書きたかったというのが執筆の動機であった。幻想郷の中では唯一、現代日本を知っている、しかも高校生としてその中で暮らしていた経験のある人物である。東方Projectを作品として楽しんでいるファンの分身でもあるわけで、そんな人が幻想郷の中で暮らしていたらどんな風に感じるのだろうか、という問いからこの話を書いた。けっきょく、その話よりも大きな題材が立ち上がってしまったのだが。

この連作では毎回、幻想郷の外のものが何か入ってくることになっている。たまたま迷いこんだり、あるいはもともとそこにあったものが幻想郷の中のものになったり。本作では二冊の本がそれだ(だから『東方鈴奈庵』なのである)。一冊は冒頭で早苗が読んでいるルナール『にんじん』だ。児童文学では非常に好きな一冊だったのだが、この話を書いていることは絶版状態になっていた。最近になって新潮文庫が復刊してくれたので、気になる人は読んでもらいたい。もう一冊はあえて伏せておく。『にんじん』とその本の題名を並べると、『博麗霊夢おはようございます』という話を書いていたとき私が何を考えていたかはなんとなくわかってしまうと思う。

『博麗霊夢おはようございます』

このところ博麗神社には珍客が続いていた。守矢神社の八坂神奈子である。下げたくもないであろう頭を下げながら、神奈子は霊夢にある頼み事をしていた。一方、東風谷早苗は一人森の中で読書に耽っていた。それを中断させた霧雨魔理沙から、彼女は思いがけぬことを知らされる。

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