杉江の読書 市川憂人『ジェリーフィッシュは凍らない』(東京創元社)

 第26回鮎川哲也賞受賞作『ジェリーフィッシュは凍らない』の帯に「21世紀の『そして誰もいなくなった』登場!」とあり、気になって読み始めた。受賞者の市川憂人は東京大学新月お茶の会出身者である。「ジェリーフィッシュ=クラゲ」とは、作中に登場する飛行船の愛称である。飛行船の運用が常態化した、別の歴史中の事件なのである。作中の時代は1980年代に設定されている。こ...

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杉江の読書 京極夏彦『虚実妖怪百物語 序』(角川書店)

杉江の読書 京極夏彦『虚実妖怪百物語 序』(角川書店)

 京極夏彦は近世と近現代がいかに連続していて、いかに断絶しているかを明らかにしようとしている作家だ。近世文学の再現や柳田國男『遠野物語』の整理と再構成などの仕事に作家としての意図は明らかであるが、水木しげる研究こそはその根幹をなすものである。水木という欠片を嵌め込むことで、いかに近世と現代とが接続しうるかを京極は示した。 10月22日から3週間連続で序...

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杉江の読書 大崎梢『よっつ屋根の下』(光文社)

杉江の読書 大崎梢『よっつ屋根の下』(光文社)

 大崎梢『よっつ屋根の下』は、家族の小説であり、家族の時間の小説である。 東京都の閑静な住宅街である白金で、平山家の四人は穏やかに暮らしていた。その日々が突然終わりを迎えたのである。平山滋は千葉県銚子市への転勤を命じられる。明らかな左遷である。それは妻である華奈にとっては受け入れられないことだった。長男の史彰、長女の麻莉香には私立校受験の準備もさせてい...

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大崎梢さんにお聞きします 2016/10/20

大崎梢さんにお聞きします 2016/10/20

 みなさん、私が解説を書いた大崎梢さんの短篇集『忘れ物が届きます』(光文社文庫)はもう読んでいただいたでしょうか。初めて大崎作品に触れる人にもなじんでもらえるように、入門ガイドのつもりで書いたので、この機会にぜひ。 杉江は池袋の西武百貨店内にあるコミュニティカレッジというカルチャーセンターで「ミステリーの書き方」という講座を受け持っています。月2回、A...

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館淳一さんだけが知っている 2016/10/24「愛欲と妄想の20世紀巷談」

館淳一さんだけが知っている 2016/10/24「愛欲と妄想の20世紀巷談」

 官能作家の大ベテラン、館淳一さんにはさまざまな顔がある。ベティ・ペイジ研究などはご自身の職業にも関連があるが、中にはまったく無関係のものもある。そのうちの一つが雑学王の顔で、たとえばSessueは館さんがずっと関心を持っている問題だ。 映画ファンの方ならご存じだと思うが、これは日本人俳優早川雪洲から来た言葉である。身長172cmの雪洲は大男大女揃いの...

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小説の問題 「グーグーだってペコペコである」津村記久子と森見登美彦と小林信彦

小説の問題 「グーグーだってペコペコである」津村記久子と森見登美彦と小林信彦

「問題小説」連載の原稿を発掘する「小説の問題」、今回は2008年10月号だ。  雑誌の切り抜きをぱらぱらめくってこのタイトルを発見したときは、思わず笑ってしまった。なんだこれ。元ネタは有名な漫画のあれだろう。フィクションを三冊紹介するときに、統一テーマとかではなく部分に注目してみようと思いついた回、のはずである。  この三冊をとりあげた、という時...

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密林さんといっしょ(その2)

密林さんといっしょ(その2)

先週末から今週中盤にかけては、来たる「博麗神社秋季例大祭」合わせの同人誌制作で現実世界から脱落しておりました。みなさん、いかがお過ごしでしたでしょうか。 そんな中、この「密林さんといっしょ」のための読書もちびちびとやっていたのである。普段は関心を持たない本をネット書店の検索機能を使って手に取り、読書の幅を広げようというこの企画、詳細は第一回の原稿を参照...

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小説の問題 「いい時間は努力しないと続かない」山本幸久と歌野晶午

小説の問題 「いい時間は努力しないと続かない」山本幸久と歌野晶午

「小説の問題」、今回は「問題小説」2007年6月号から。山本幸久と歌野晶午を取り上げている。このときは2冊の時代。  複数冊を取り上げてそのつながりを匂わせながら紹介していく書評なのだが、時折、パッと見ただけではその理由がわからないものがあった。今回もそうで、いや、その1つはちゃんとタイトルでも書いてあるのだが、実は別の理由があったのだった。それは読者...

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杉江の読書 『窓辺の老人 キャンピオン氏の事件簿1』(猪俣美江子訳/創元推理文庫)

杉江の読書 『窓辺の老人 キャンピオン氏の事件簿1』(猪俣美江子訳/創元推理文庫)

 マージェリー・アリンガムの創造した名探偵譚をまとめた作品集〈キャンピオン氏の事件簿〉、第一弾は2014年に刊行された『窓辺の老人』である。本書に初期短篇、第二弾の『幻の屋敷』に中後期といった具合に、ほぼ発表年順に作品は配置されている。巻頭の「ボーダーライン事件」は、江戸川乱歩が『世界短篇傑作集3』に採ったことでも知られる傑作で、改めて読むとその鮮やかさに惚...

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杉江の読書 『幻の屋敷 キャンピオン氏の事件簿2』(猪俣美江子訳/創元推理文庫)

杉江の読書 『幻の屋敷 キャンピオン氏の事件簿2』(猪俣美江子訳/創元推理文庫)

 アルバート・キャンピオンは38歳にもなって従順な学童のようにかしこまっていた。齢80近いシャーロット大伯母から押しつけられた調査が進展せず、怠けず動け、と叱責されたのである。彼女が屋敷を2週間留守にした後で帰宅してみると、何者かが侵入した痕跡があったのだという。すべてを気のせいとして片づけたいキャンピオンであったが、見逃せない証拠があった。絶対にこの家のも...

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