翻訳ミステリーマストリード補遺(ミステリー塾9/100) レックス・スタウト『料理長が多すぎる』

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翻訳ミステリー大賞シンジケートの人気企画「必読!ミステリー塾」が最終コーナーを回ったのを記念して、勧進元である杉江松恋の「ひとこと」をこちらにも再掲する。興味を持っていただけたら、ぜひ「必読!ミステリー塾」の畠山志津佳・加藤篁両氏の読解もお試しあれ。

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ひとつ補足を。

加藤さんがウルフが外出する、というシリーズの例外作品であることについて書いておられました。このシリーズは頭脳役のネロ・ウルフが出不精で頑固なのを、手足役のアーチー・グッドウィンがなだめすかしながら動かすというのが眼目です。だからどっちかといえば密室内の事件は少なく、外の事件のほうが多い(某事件で屋内に籠城しなければならなくなったとき、アーチーは苛々してしまいます)。その昔「行動派探偵小説」という言葉があり、スタウトやE・S・ガードナーの作品がそれに入れられていました。行動派って、誰だって行動ぐらいするだろうと思いますが、「探偵が元気な」程度の意味でしょう。

ウルフは確かに引きこもり気味ではありますが、意外と遠出をすることもあります。だから「行動」を引き立てるための「重石」の役割を彼がしている、という風に考えればいいのではないかと私は思います。

さて、レックス・スタウトです。スタウトは多くの作家が「お手本」として名を挙げるライターズ・ライターです。彼はシャーロキアンでもあり、ホームズ&ワトスンのコンビをモデルにしながら独自の要素を付け加え、ウルフ&グッドウィンを造形しました。コンビ探偵の魅力で物語を牽引するミステリーの形式は、アメリカでは彼が確立したと言っていいでしょう。『料理長が多すぎる』は本拠地を遠く離れた物語ですが、他の作品ではニューヨークの街が魅力的に描かれています。ローレンス・ブロックやドナルド・E・ウェストレイク、エド・マクベインらのニューヨーカー作家たちも、創作に当たってはスタウトを強く意識していたはずです。ウルフ譚を読むときは、ぜひ街の地図もご参照ください。

さて、次回はダフネ・デュ=モーリア『レベッカ』ですね。楽しみにしております。

『料理長が多すぎる』を畠山・加藤両氏はこう読んだ。

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