街てくてく~古本屋と銭湯、ときどきビール 2020年1月・緑地公園「blackbird books」「天牛書店江坂本店」、梅田「阪急古書のまち」+浪曲親友協会

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天牛書店前にて開店を待つの図。

某月某日

大阪滞在の二日目である。

前日から滞在している船場のホテルを出て、御堂筋線に乗る。そのまま北上して、北大阪急行電鉄の緑地公園駅へ。午前中、ここにどうしても寄っておきたかった。十一時開店の天牛書店江坂本店である。三十年前、そのころ勤めていた会社の研修で三ヶ月ほど大阪にいたが、これ幸いと休日は古本屋巡りばかりしていた。当時最もお世話になったのが、天牛書店だったのである。郊外の店ということもあって、慌ただしい滞在のときはどうしても足が向かない。お礼参りじゃないけれど、何年ぶりかの天牛だ。

が、その前にもう一軒。十時から開いている古本屋がもう一軒この緑地公園駅にはある。天牛とは反対で駅の西側、外に出て道を南に下っていくと五分ほどで小体なお店に行き当たる。blackbird booksだ。すでに開いているようだったが、店頭にCLOSEDの札が出ている。声をかけて聞いてみたところ、しまい忘れだとわかったので、安心して中に入った。

中央に島のある回型の書店で、文学書などは左側のエリアに集中している。美術書など大型本や、ZINなども置いてあり、京阪の中小出版社の本も新刊である。文学棚を集中的に見たが趣味のいい本が並んでいる。特に海外文学は、旧いものから昨年出たような新刊まで幅広い。しばらく棚を眺めたあとで、本の本のコーナーにあった山本善行『関西赤貧古本道』を買うことにした。古本道の大家で、それが昂じて京都・出町柳に古書善行堂を出すに至った人物である。京都ではないが、関西の古本屋で買うべき本だろう。

ここを出てだらだらと坂を下っていき、最初にあった陸橋で線路を越える。真っ直ぐ進むと、天牛書店と書いた看板が目に入る。その角を左に曲がったところにあるのが江坂本店だ。到着したときにはまだ十一時には数分あり、店員さんが開店の準備をしていた。店頭に出された50円均一台を見ながら、しばらくそのまま待機する。

十時になったので中に、いいですか、と声をかけた。どうぞご覧ください、と言ってくれるのを確認して、均一台に。三十年前も均一台はあったのだっけ、記憶がない。50円から段階的な値付けで均一棚が設けられているのが楽しい。中に入ると、入口と垂直に棚があり、右の壁際といちばん端が日本文学、次に海外文学、趣味の棚、写真集などの大判本といった感じで並べられている。奥の左が帳場で、右奥は学術書などの硬い本だ。螺旋階段を上って二階に行くと、文庫中心のフロアになっている。秋元文庫などの珍しいものを棚の上段に面陳してお客を誘惑してくるのが憎い演出だ。二階奥にもう一ヶ所均一価格の本だけを集めた小部屋があった。ここはバーゲンセール的な意味があるのだろうか。テーブルの上に山岳書だけがずらっと並べられていて、一瞬血圧が上がる。掘り出し物がないか丹念に見て回る。

いようと思えば二時間でも三時間でもいられるのだが、いかんせん余裕がない。手早く会計を済まして、駅に戻った。これからはるばる南下して環状線の向こう側、天王寺まで行かなければいけないのだ。

天牛書店で買った本の一つ。ベースボールマガジン社主催興行は闇歴史になりつつあるので、この号は持っておこうと思う。

天王寺まで来た理由は、近くの阿倍野区民ホールで開催される浪曲親友協会の「初夢で『見たよ、聞いたよ』浪花節」正月公演を聴くためである。開会の挨拶で会長の京山幸枝若が出てきて、それだけで元を取った気分になる。ファンなのだ。

演目は以下の通り。

浪曲大喜利 真山隼人(司会)、京山幸太、天中軒景友、三原麻衣、天中軒すみれ、京山幸乃:曲師 一風亭初月、沢村さくら

リレー浪曲「父帰る」 松浦四郎若、天光軒新月、天光軒満月:曲師 虹友美

親子浪曲「若き日の小村寿太郎」 天中軒雲月、天中軒月子:曲師 藤初雪

仲入り

「出世太閤記 秋風矢矧の橋」 春野惠子:曲師 一風亭初月

「名刀稲荷丸」 京山小圓嬢:曲師 沢村さくら

「大関御所桜仙之助」 京山幸枝若:曲師 一風亭初月

京山幸枝若は「五分押していて、五時までに収めないといけないから巻いてくれと言われました」と言いながら出てきて、その言葉通り本当にふわっと軽く演じた。幸枝若は筋ではなくて飄逸な語りそのものと節が楽しく、この日も本題そっちのけで足の弱い老人が頼りなく歩く道中で観客を笑わせて、すっと終わった。胃もたれさせず、また来たい気持ちにさせるところがたまらなく好きなのだ。

終わると出演者総出で見送り。これもまた浪曲の距離が近くて嬉しい要素である。

東京からの遠征勢と関西組とで天王寺近くでしばし懇談、いろいろな話をする。ホールの近くの席に、今まで聞いたことがない不思議な掛け声をする人がいたのだが、それは関西浪曲界の有名人だったことが判明して収獲だった。本当に不思議な掛け声なのである。

東京勢はその日も泊まって翌日は真山隼人の徂徠豆腐を聴くのだというが、私は帰らなければならない。不本意ながら新幹線を使ってでも当日中に戻る必要があるのだ。梅田駅で一同と別れ、急いで阪急古書のまちを見る。移転して今の場所になってからは初めての訪問だ。大阪古書界のエッセンスを集めたような店ばかりで、隙がない。中の杉本梁江堂は、演芸関係の本が充実しており、値付けは高めながら、少々頑張れば、という感じで気持ちをくすぐるのである。いくつか心が動いたが、とりあえず我慢して足立秀夫『え~泣き笑いを一席』を買う。大須演芸場の名物席亭が半生を綴った本だ。

杉本梁江堂の写真を撮り忘れていたことに気づいた。これは近所の太田書店。

新幹線は帰省ラッシュのため指定席がとれず、自由席のデッキで立ち通しで帰る。ここも人がいっぱいで、テトリスのようによじれながら足立席亭の本を読んで過ごした。責任感がまったくなく、あっけらかんとしていて素晴らしい。あまりに混み過ぎていて車内では飲食もままならず、帰宅後近所の居酒屋で一杯やって寝る。大阪遠征おしまい。

※今回非常に頼りにしたのが古本屋ツアーこと小山力也さんの『古本屋ツアー・イン・京阪神』だった。この本がなかったらひさしぶりの大阪で手も足も出なかったと思う。小山さん、ありがとうございます。

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