街てくてく~古本屋と銭湯、ときどきビール 2019年7月・湯河原「好文の木」辻堂「古本の店つじ堂」

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何度も湯治に来たことのある街に古本屋があったんですよ先生。

7月某日

(承前)

清水~狐ヶ崎~草薙と3軒回って2軒の訪問に成功した静岡行の続きである。

あのまま静岡駅まで行って、あべの古書店あたりに行けばまた収獲も見込めたろうに、それをせず引き返してきたのには理由があった。東海道線にはまだ未訪店がある。神奈川県内の店が比較的穴あき状態なのだ。ここで深追いをして夜になってしまうよりは、中途半端に近くて普段はなかなか足の向かない神奈川県内を、青春18きっぷの恩恵でつぶしてしまったほうがよかろうというなかなか大人な戦略的判断だったのである。

草薙駅から三島駅で東海道線を乗り換え、二つ先の熱海駅まで。熱海から快速アクティーに乗り換える。これで行けば横浜駅まで快適に座っていける。一瞬心が揺らいだが、えいやっと次の湯河原駅で降りてしまう。ここに未訪店があるのだ。

たぶん2年ぶりに湯河原駅で降りた。前回来たのはPTA元会長の親睦旅行である。というか2週間後にはそのときと同じ顔触れでこの湯河原に来て花火大会を見物しようという話になっているのだが、まさか団体旅行で一人だけ古本屋に行くわけにもいかないしね。駅前の道をだらだら下っていき、最初の信号を左に曲がる。そこから道なりに歩いていくともう一回信号が出るので、Y字路気味の交差点を今度は右。そうすると広い公園が出てきて、この先に果たして古本屋などあるのだろうか、と心配になるが、案ずることもなく200mも歩くと道の右側にそれはある。

土肥5丁目ブックストリートである。

この呼び名は正式名称ではなく、株式会社文昭堂好文の木がつけたものではないかと思う。駅側から来ると右から「ぶんらく商店2号館」「同1号館」「好文の木」という三つの店が並んでいる。これらすべてを上記の会社が経営しているのだ。この敷地の中に印刷屋と書店とリサイクルショップが同居している。たぶん2号館になっている建物が以前は印刷会社だったのではないだろうか。現在では書店の好文の木の一画に縮小されており、その分リサイクルショップが大きくなっている。

このうちのどこかに古本のゾーンがあるのだ。どの店かはわからないので、とりあえず手前の2号館を覗く。普通のリサイクルショップである。ここはまず違うだろう。

続いて1号館に入る。看板に本・CDの文字が並んでいるので、ブックスガレージといった旧店舗のときはここが古本屋だったのではないかと思う。店内はしかし、フィギュアやプラモデル、ゲームソフト、海辺の街らしく釣り道具といった本以外のもので埋め尽くされていた。ここもどうやら外れのようだが、わずかながらCDはあるようなので、古本のゾーンがないとも限らない。念のため奥に入ってみると、のれんがかかった成人コーナーがあった。その奥には成人雑誌や官能小説の古本が。一応古本発見である。あった。ありましたよ。

しかしこれをもって古本屋と呼んでいいものか、と悩みながら外に出て、最後の好文の木に入る。ぱっと見た感じでは普通の新刊書店なのだが、壁際を見ると。

中古本、という標示がある。

おお、ここが古本ゾーンだったのか。店内は新刊本と中古本が2:1ぐらいの割合で置かれていて、けっこう古本の点数も多い。品揃えとしては新古書店のそれなのだが、100円均一棚には珍しいものもあった。セバスチャン・フィツェック『ラジオ・キラー』とピーター・ディキンスン『エヴァが目ざめるとき』がそれぞれ100円だったのでありがたく引き取ることにする。持っているけど、まあ、いいだろう。ここまで来た記念である。

2号館

1号館

好文の木

店を出て、またとぼとぼと駅まで戻る。熱海駅前には足湯の徳川の湯があるが、湯河原駅前には手湯がある。そこで手を洗うとさっぱりして旅の垢まで落ちる気がした。

さて、どうするか。来た列車に乗ると、快速だった。これだと目指す駅には停まらないのである。それもやむなしか、と思っていると平塚駅で湘南新宿ラインの各駅停車に乗り換えることができた。あ、停まるわ。停まるぞ、これ、辻堂駅に。

というわけで、本日最後のお店、古本の店つじ堂に訪問決定である。

辻堂駅前にはかつて複数の古本屋が存在したのだが、現在では最古参のつじ堂しか残っていない。駅前の一等地、再開発の声がいつかかってもおかしくない三軒長屋式の雑居ビルの一隅にお店はあるのだ。駅の南口を出て数分、時刻からいってもう閉まっていてもおかしくはないのだが、と祈るような気持ちで店を訪ねる。開いていた。おお、開いていた。

つじ堂はやや奥まったところに店がある。たぶん、店の前はガレージとして使われてもおかしくないような風情だ。そこに均一棚が並べられている。1冊50円3冊100円のものと、1冊100円3冊200円のものと2種類だ。そこを丹念に見てから店内に入った。

ほぼ正方形の小さなお店だが、真ん中に棚を置いて中を二つに区切った一般的な古本屋の構造になっている。壁際の棚が主として文学や社会学関係、私の関心がある海外文学は右の壁側である。真ん中の棚は左が文庫、右がコミックという構成だ。小さい店だが、函入りの文学書が多く、なかなか馬鹿にしたものではない。須永朝彦『望幻鏡』があったので、いい機会なので購入することにした。値段も馬鹿安というわけではないが記念に一冊購入してもいいと思う程度の程良い価格だ。年季の入った帳場に本を差し出してお金を支払う。年配の店主に、ありがとうございました、とお礼を言われる。こちらのほうがお礼を言いたい気持ちである。辻堂で古本屋を続けてくださってありがとうございます。

最後の最後にいい買い物ができて気分がよくなった。家路に就く。

青春18きっぷ旅行、2日目が終了。

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