杉江松恋不善閑居 池袋コミュニティカレッジ「ミステリーの書き方」のこと・その2

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これまた関係ないけど、甲府駅にて。

池袋コミュニティ・カレッジで担当している「ミステリーの書き方」講座は、私が何かを教えるというよりは、小説を書きたいという気持ちを持っている人が目的を完遂できるように手を貸す工房なのだ、という話を前回書いた

木曜日夜の講座で、以前は月二回開催だった。現在はそれを二つに分けてそれぞれ月一回ずつになっている。私はAコース、Bコースとそれぞれ呼んでいるのだが、登録上は「創作実習コース」「応用演習コース」ということになっている。これは、申し訳ないことにあまり実態に即していない名称かもしれない。Aコースは「背中を押す」、Bコースは「手を引く」ことが目的だ。

背中を押す方は、すでに書きたいものがあるけど一人だとそれを完成させられないかもしれない、と思っている人が対象である。このコースで私がしてあげられることは1-1「書きたいと思っているもののだいたいのイメージを聞いて、それがどんな完成形になるか意見を言う」1-2「筋立てを教えてもらい、過不足について助言する」1-3「できあがったものを元に、直しの提案をする」の3点である。

順番に見ていく。

(1-1)

「完成予想を言う」のは、私のほうがだいたいの受講者よりも小説を読んだ数が多いからである。受講者が考えているプロットを聞けば、こういう形になるだろうな、ということはほぼ理解できる。時に予想を上回るものが出て来る可能性もあるが、そういうものを出してくる人は、本当は自分一人で小説を完成させられるので受講の必要がないのである。大多数の人はプロット上の必然として、ある程度は定型的な作品になる。もちろんそれはそれで構わない。平凡な内容でも、できないよりはできたほうがいい。

(1-2)

「筋立ての過不足」について助言するのは、実際に着手する前の障害を下げるためである。たとえば必要もないのに人物が多く出ていたり、無駄な場面があったりすると、そこを書こうとして余計な力を使う。

逆に足りないものがあると、そこを途中で考えなければいけなくなって時間切れになる。ミステリーのプロットは「〇〇だと思ったら××だった」という形で言い表すことができるものが多いが(特に短篇)、これを起承転結に落とし込むと、起部で「〇〇」、結部で「××」を書くのが一般的だろう。逆に言うとそれ以外の部品はできていないわけで、頭とお尻しかない鯛焼きのような状態に最初はなっている。そのまま書きはじめると、「〇〇」と「××」の間で無数の選択肢にぶつかり(あるいは何も選択肢が思い浮かばないことに当惑し)、難しくて書けなかった、という結論に逃げ込むことになってしまう。

どんな選択肢でもいいからとにかく「〇〇」と「××」の間に道ができていればいいだけの話なので、そこが足りません、どうしましょうか、という指摘をするわけである。

だいたいこの程度の助言があれば、長ささえ気にしなければどんな話でもだいたい最後までは書ける。ここで終わりにしてもいいのだが「話を思いついた」「書いた」の繰り返しだけだと、「どうやったらさらに内容が充実するか」ということに気づく過程が不足する。そのために(1-3)まではお手伝いするのである。

(1-3)

「直しの提案」は、基本的に叩き台となる第一稿が完成するまでは行わない。まだ書き上がっていない段階で作品に対して何かをできるのは書いている当の本人だけで、他人は何もできない。もっとも、途中提出でここまでのアドバイスを、と求められる場合もあるので、そのときは完成した部分にだけ何かを言うことにしている。コメントした箇所は直さず、全部書き終えたてから直す参考にしてもらうのである。

基本的に(1-3)は(1-1)と(1-2)と同じ原理でしかものを言わない。つまり、ご当人が何を書きたいかというのが出発点であり、その動機を満足させるものができているかどうか、というのが直しの判断基準になるのである。

「思ったのと違うものができた」場合は、途中の計画か材料に問題があるはずなので、それについて意見を言う。

「思った通りにできたと思うが思った通りだった」と言う人もいる。変な言い方だが、言いたいことはわかっていただけると思う。つまり予定調和のプロットから抜けられていないと感じたり、独自性が足りないと不満を持ったりするケースだ。これに関しては、その違和・不満がどこにあるのか私にわかれば、では何々の部品を取り換えてみましょう、と提案をする。不満の原因が判明しない場合もあるが、そのプロットで書かれた類似作品の例から、何が物足りないのかを聞き出してみる。型にはまるのが嫌、と言いつつ、型にどの程度のバリエーションがあるのかわからない、という人のほうが多いはずなので、例を挙げて相談しているうちに明確化していく可能性がある。何が不満かわかったら、リライト開始である。

こうした繰り返しを、サボらないように提出期限を設けて実行してもらうのがAコースだ。「背中を押す」というか「お尻を叩く」のほうが適切かもしれない。(つづく)

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