翻訳ミステリーマストリード補遺(33/100) ロス・トーマス『冷戦交換ゲーム』

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翻訳ミステリー大賞シンジケートの人気企画「必読!ミステリー塾」が最終コーナーを回ったのを記念して、勧進元である杉江松恋の「ひとこと」をこちらにも再掲する。興味を持っていただけたら、ぜひ「必読!ミステリー塾」の畠山志津佳・加藤篁両氏の読解もお試しあれ。

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ロス・トーマスの作家デビューは1966年の本作で40歳のときでした。彼は学生時代、第二次世界大戦中に兵役を務めフィリピン諸島に滞在(そのときにレイモンド・チャンドラーの小説に出逢います)、終戦後は復学してジャーナリズムの世界に入り、各国で記者として活動しました。『冷戦交換ゲーム』にはそうした経験が活かされていますが、忘れてはいけないのは二十代でマッカーシズム、すなわちアメリカ合衆国を吹き荒れた赤狩りの狂奔を体験していることです。彼の作品全般を覆うひねくれたユーモアのセンスは、そうした全体主義的傾向を自国で体験したことにも起因しているのではないでしょうか。正義を標榜する者、暴力によって自分の我を通そうとする者に最後まで反抗し続けることが、トーマスの作家としての信念だったのではないかと思います。そうした意味では今こそ彼の作品はもっと読まれるべきなのです。

ロス・トーマスの仕事でもう一つ大事なのは、ジョー・ゴアズ原作でヴィム・ヴェンダースが監督した映画『ハメット』の共同脚本を書いていることです。ちょい役で出演しているとのことなのですが、私は彼の姿をまだ発見できていません。関心ある人は探してみてください。

『冷戦交換ゲーム』を畠山・加藤両氏はこう読んだ。

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