読書もの 一覧

杉江の読書 『幻の屋敷 キャンピオン氏の事件簿2』(猪俣美江子訳/創元推理文庫)

 アルバート・キャンピオンは38歳にもなって従順な学童のようにかしこまっていた。齢80近いシャーロット大伯母から押しつけられた調査が進展せず、怠けず動け、と叱責されたのである。彼女が屋敷を2週間留守にした後で帰宅してみると、何者かが侵入した痕跡があったのだという。すべてを気のせいとして片づけたいキャンピオンであったが、見逃せない証拠があった。絶対にこの家のも...

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杉江の読書 岡本和明『小せんとおとき』(角川書店)

杉江の読書 岡本和明『小せんとおとき』(角川書店)

「あたしゃねえ、はなしを卸す問屋だよ。三銭でおろしてあげるから、お前さんたちは、そいつを五銭で売るように勉強するんだよ。モトは取れるから……」(古今亭志ん生『びんぼう自慢』)  初代柳家小せんは1883(明治16)年生まれ。父もやはり落語家で、四代目七昇亭花山文から二代目三遊亭萬橘を襲名した。小せんは二ツ目時代に第一次落語研究会に登用されるなど早くから...

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杉江の読書 カーリン・フォッスム『晴れた日の森に死す』(成川裕子訳/創元推理文庫)

杉江の読書 カーリン・フォッスム『晴れた日の森に死す』(成川裕子訳/創元推理文庫)

 森の家で一人暮らしをしていた老婦人が殺されたという。 通報を受けた警察官は現場に急行し、左の眼窩に鍬の刃が突き刺さった、無残なハルディス・ホーンの死体を発見した。通報者である少年は、現場近くでエリケ・ヨルマ・ピヨテルを目撃したという。エリケは奇矯な言動で知られ、付近の住人に恐れられていた人物だった。事件を担当するはずのコンラッド・セイエル警部...

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杉江の読書 早坂吝『アリス・ザ・ワンダーキラー』(光文社)

杉江の読書 早坂吝『アリス・ザ・ワンダーキラー』(光文社)

表紙を見て、あ、島風、と思ったが違いました。ウサギである。 早坂吝『アリス・ザ・ワンダーキラー』は、第50回メフィスト賞を獲得した『○○○○○○○○殺人事件』(講談社)でデビューを飾って以降、さまざまな奇手によって読者を驚かせてきた作者の最新作だ。題名が示す通り『不思議の国のアリス』がモチーフとして使われている。同作はミステリーとも相性がよく、国産の作...

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書評の・ようなもの 町中華とはなんだ・その4(終)

書評の・ようなもの 町中華とはなんだ・その4(終)

(その1) (その2) (その3) (4) 町中華探検隊が僕の町に来るかどうかは知らない。 だから僕なりに、うちの地元の町中華のことを書いておこうと思う。こういうのが町中華だ、というサンプルのつもりである。お断りしておくが、以下のイニシャルは単純なアルファベット順で、まったく店名とは関係ない。もしかすると同じ地元の方は、あ、うち...

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書評の・ようなもの 町中華とはなんだ・その3

書評の・ようなもの 町中華とはなんだ・その3

(その1) (その2) (3) なぜ町中華探検隊に入れてもらうようにお願いしなかったのか。 もし理由があるとすれば、僕にとって町中華通いが、ごくごく私的な性質のものだったから、というものだろう。 僕が頻繁に町中華に行くのは、一人で飯を食うのに適しているからだ。時分どきを外し、ある程度つまみになるものを頼めば、ちびちびビールをのみ...

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書評の・ようなもの 町中華とはなんだ・その2

書評の・ようなもの 町中華とはなんだ・その2

(その1) (2) 趣味や興味を持ったことを仕事に結びつけるのはライターの特権だ。 トロさんはそれがとても上手くて、裁判の傍聴ライターになったり、ネット古本屋を始めたり、とこれまでもいろいろなことをしてきた。季刊レポもその1つで、雑誌が売れなくなっているということに危機感を持ったトロさんが自分でやってみようとして始めたものである。あの雑誌は...

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書評の・ようなもの 町中華とはなんだ・その1

書評の・ようなもの 町中華とはなんだ・その1

(0)  町中華、と言われて僕が即座に連想するのは、松本零士『男おいどん』の主人公、おいどんこと大山昇太が行きつけとしているほぼ唯一の店、佐渡酒造に似た(というかほぼ同一キャラ)店主がひとりで切り盛りしている中華飯店だ。おいどんはここで忸怩たる思いを飲み込むようにしながらラーメンライスを食うのである。 自分自身の思い出に残る町中華といえば生まれた...

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杉江の読書 アンドレ・ド・ロルド『ロルドの恐怖劇場』(平岡敦訳/ちくま文庫)

杉江の読書 アンドレ・ド・ロルド『ロルドの恐怖劇場』(平岡敦訳/ちくま文庫)

机の上はきちんと整理整頓されている。置かれているのは、劇薬入りのビーカーに、メスや剪刀。しかし、安定が悪い。机の脚がぐらぐらしているのだ。ちょっときっかけを与えるだけで、それらは動き出す。机の前に座るあなたを目がけ、降り注いでくるだろう。 アンドレ・ド・ロルド『ロルドの恐怖劇場』はまさしくそうした小説集である。20世紀初頭のパリでは凄惨と言うしかない恐...

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杉江の読書 松井今朝子『料理通異聞』(幻冬舎)

杉江の読書 松井今朝子『料理通異聞』(幻冬舎)

 五感のすべてが、おいしい、おいしい、と喜んでいる。 松井今朝子『料理通異聞』を読んだからだ。ふうん、料理の時代小説ね、と軽い気持ちで手に取ったら止まらなくなって一気に読了してしまったのである。 物語は天明2(1872)年に始まる。主人公の善四郎は浅草新鳥越町に暖簾を出している、福田屋という料理屋の長男だ。福田屋の前身は八百屋で、今でも精進料理を...

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