翻訳ミステリーマストリード補遺(43/100) コーマック・マッカーシー『チャイルド・オブ・ゴッド』

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翻訳ミステリー大賞シンジケートの人気企画「必読!ミステリー塾」が最終コーナーを回ったのを記念して、勧進元である杉江松恋の「ひとこと」をこちらにも再掲する。興味を持っていただけたら、ぜひ「必読!ミステリー塾」の畠山志津佳・加藤篁両氏の読解もお試しあれ。

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ミステリーという小説ジャンルは独立して存在するわけではありません。常に周辺領域の成果を吸収し、またはその定型が他のジャンル小説や一般小説に流用され、相互に影響を与え合って発展してきました。現在の主流文学作家にも、ミステリーと見なせる作品を多く発表している人物は多数います。たとえばアメリカのジョイス・キャロル・オーツ。またはイギリスのギルバート・アデア。彼らがミステリー作家と呼ばれることはほぼありませんが、その作品にはジャンルの境界内に含まれるものが存在します。

そうした作家の代表格としてコーマック・マッカーシーを選びました。マッカーシーは少年期にアパラチア山脈のヒルビリーと呼ばれる貧困層の白人に強い関心を持ち、初期作品の『チャイルド・オブ・ゴッド』ではそうした人々の共同体で起きた事件を描きました。それに続く『ブラッド・メリディアン』や〈国境〉三部作などの作品では、アメリカとメキシコの国境地帯を舞台に選んでいます。国家や共同体の中央では秩序が整然と成立していても、周縁部では失われ、混沌が広がっていることがあります。そうした無秩序や無政府状態についての興味がマッカーシーに創作意欲を与えました。こうした主題は、犯罪小説が好んで取り上げるものでもあります。原作となった長篇『血と暴力の国』や『悪の法則』の脚本などの犯罪映画との関わりも、こうした傾向の延長線にあるものでしょう。読者や観客は、マッカーシーの描く世界の背後に広がるもの、自分たちの拠って立つ世界の影になっている部分を見るのです。

『チャイルド・オブ・ゴッド』を畠山・加藤両氏はこう読んだ。

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