翻訳ミステリーマストリード補遺(23/100) ノエル・カレフ『死刑台のエレベーター』

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翻訳ミステリー大賞シンジケートの人気企画「必読!ミステリー塾」が最終コーナーを回ったのを記念して、勧進元である杉江松恋の「ひとこと」をこちらにも再掲する。興味を持っていただけたら、ぜひ「必読!ミステリー塾」の畠山志津佳・加藤篁両氏の読解もお試しあれ。

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『死刑台のエレベーター』は前回の『太陽がいっぱい』と共に「映画しか観てないけどなんとなく原作も読んだ気になっていて、いざ読んでみると違いにびっくり」ご三家を形成しています(あと一冊はロバート・ブロック『サイコ』)。しかもスリラーとしては滅法おもしろく、これを読まないのは非常にもったいない。というわけで選書の最初期から本書を入れることは決めておりました。100冊の中には企画当初には本があったものの、そのうちに品切れになってしまったという作品が何冊もありずいぶん口惜しい思いをしましたが、本書が残ってくれて本当によかった。

先日、新宿五丁目cafe live wireで開催したピエール・ルメートルとフランス・ミステリーについて語るイベントの中で、翻訳家の橘明美さんがおもしろい喩えをしてくださいました。フランス・ミステリーの癖のある感じについて「場外乱闘のよう」と。そうそう。このまま最後までリングの中で闘って決着をつけてほしいのに、途中で場外乱闘がおっぱじまってしまい両者リングアウトで不完全燃焼の終わり方になってしまうと。なるほど、言い得て妙だと思いました。しかし、私が嵌まったころのフランス・ミステリーはそうではなかった(あるいはそうではない作品ばかり読んでいた)。プロットがどんなによじれたように見えても、最後は必ずリング中央に戻ってフィニッシュを決めてくれる。まさにスリラーのお手本のような長篇を数多く読んできたという記憶があります。『死刑台のエレベーター』は、そうした正調(とあえて言いますが)フランス・ミステリーの見本のような作品です。これを読んだあともし気になった人がいたら同じ作者の『その子を殺すな』も読んでみてください。小説のねじれはどうやると生まれるのか。そしてそれをどうすれば本筋につなげられるのか。いろいろなことをカレフからは学ぶことができます。

『死刑台のエレベーター』を畠山・加藤両氏はこう読んだ。

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