翻訳ミステリーマストリード補遺(18/100) アイラ・レヴィン『死の接吻』

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翻訳ミステリー大賞シンジケートの人気企画「必読!ミステリー塾」が最終コーナーを回ったのを記念して、勧進元である杉江松恋の「ひとこと」をこちらにも再掲する。興味を持っていただけたら、ぜひ「必読!ミステリー塾」の畠山志津佳・加藤篁両氏の読解もお試しあれ。

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まったくの初心者に海外ミステリーを1冊薦めるとすれば、何がいいだろう。

そういう問答をしたことがあります。当然いろいろな作品名が挙げられたのですが、そこにいた者がみな納得したのは「それは『死の接吻』ではないか」という誰かの一言でした。『マストリード』には加わるべくして加わった1冊であります。

ところが、舞台裏を書いてしまうと、この本は全100冊中で唯一、『マストリード』の刊行時に品切れになっていたタイトルでもあります。原稿を描き、校正を経て印刷に回るあたりまでは市場在庫があったのですが、念のために、と調べてみたら見本が上がってくるころには品切れに。編集者と「仕方ないよね、それに『死の接吻』だし」と慰めあったものでした。その後無事に増刷されたようで、嬉しい限りです。

本文にもありますが、アイラ・レヴィンはとんでもない寡作作家で、生涯に数えるほどしか作品を発表していません。ただし『死の接吻』で恋愛小説とサスペンスの要素を見事に融合させ、『ローズマリーの赤ちゃん』では古典的なテーマを都会生活の中に甦らせたモダンホラーの典型のような小説を書き、と1作1作がそのままジャンルを形成するかのような独創性の高い作品でありました。これに付け加えるなら見事な諷刺劇でもある『ステップフォードの妻たち』、後に何度も模倣されることになる『ブラジルから来た少年』とSFジャンルの方でも佳作を書いております。まあ、晩年になってからのものはさすがに駄作だったと思うのですが。

『死の接吻』を畠山・加藤両氏はこう読んだ。

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