街てくてく~古本屋と銭湯、ときどきビール 2020年1月・駒込「古書宮橋駒込店」「BOOKS青いカバ」、入谷「古書ドリス」

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古書宮橋駒込店にて。このへんはたしか、泡坂妻夫さんがお住まいだったあたりじゃないかしらん。

某月某日

この日はひさしぶりに「翻訳メ~ン」の収録があった。川出正樹さんと私が月一でやっている、翻訳ミステリーのレビュー番組なのだが、ここのところ都合が合わず、しばらくお休みしていたのである。川出さんとは私が大学一年のときに会って以来だから、もう三十年以上のおつきあいである。会えば何がなくても最近読んだミステリーの話をする。「翻訳メ~ン」は二人がしている会話をそのまま流しているような番組なのだ。ミステリー研究会に入ると、春夏秋冬、朝から晩までずっとこういう話をすることになるのである。

収録終了後、池袋駅で川出さんと別れて東へ向かった。今日は田原町で浪曲師・富士綾那さんの勉強会なのだ。それまで時間が空いたがどこかで本でも読んでいようか、と思っていたらいつの間にか駒込駅で下りていた。不思議なことである。せっかくなので、駅を東口から出て南へ向かう。ずっと続いている商店街がアザレア通りになったすぐ、道の左側にあるのが、古書宮橋駒込店だ。

店頭には新しめのコミック誌や週刊誌などが安く値付けされた棚がある。昔は新宿駅付近にもこういう古本屋があったのだ。中に入ると、はい、いらっしゃい、と左の帳場の中から店長が声をかけてくれる。古本屋にしては人懐っこい。フロアの棚は入口から縦に三列あり、右が文庫、中がコミック、左はサブカルチャーから実用書、小説、趣味の本と雑多なジャンルが小刻みに仕分けられている。プロレス本なども多い。壁際には日本小説を特に集めたコーナーがあり、新しめのものも充実していた。力道山本に心が動いたのだが、持っているような気がして買えず。ぺこりと頭を下げて店を出る。

冷たい雨が降ってきている。アザレア通りを右に折れ、曲がりくねりながら南東に向かう坂道を上っていく。六義園に向かう道である。上富士前交差点で信号を渡った先に、BOOKS青いカバがある。都内某大書店で長く勤めた店長が一念発起して始めた古本屋で、新刊のセレクトブックショップの性格もあり、駒込一帯の文化基地として頑張っている。店頭の均一棚からしていつも充実しており、これはと思うような文学書が安く置いてあるので嬉しい。店内に入ると、セレクト本の棚で田辺聖子の文庫フェアが行われていた。〈カモカのおっちゃん〉エッセイを買っていこうか、と思ったのだが、今は個人的に山口瞳フェスティバル期間なので思いとどまる。お聖さんをまとめて読みたい方は今がチャンスだ。

お店は入って右が児童書や絵本、左が文庫の地帯になっており、その間に上に書いたセレクト本の棚がある。奥に行くと文学書の密度が高い棚があり、目の覚めるような選書が出迎えてくれるのである。店長がいたらちょっとご挨拶を、と思ったがこの日は留守だった。

青いカバを出ると、開演まであと一時間くらいになっていた。場所は台東区の田原町なので十分間に合うが、まっすぐ行くとちょっと時間が余る。こういうときは古書ドリスだ。駒込から山手線で鶯谷に向かう。

鶯谷駅を出たら信号を渡り、一つ入った道を書道博物館や子規庵とは反対方向に行く。夕方になると薄暗くなる道だ。しばらく行くと開けた通りに出る。そこを渡ったところにある。

古書ドリスは幻想文学の専門店だが、それ以外のジャンルにも強い。店内はL字型になっていて、横棒の地帯が幻想文学の花園になっている。縦棒の地帯にもそれ関係の本はあるが、目配りは幅広く、美術・芸能からサブカルチャーなど人文系全般に及ぶ選書が飽きない配置で並べられている。ここで二見書房のウルトラマンタロウ本を拾った。フィルムストーリーが三冊セットで箱に収められた文庫大の本で、当時の定価は五百円だった。ビデオのないころだからこういうものが嬉しかったんだよな、と思いながら帳場でお金を払う。

ここまで来たら歩いて田原町まで行ってもいいのだが、時間がぎりぎりになってしまいそうだ。おとなしく入谷駅から日比谷線に乗り、上野で銀座線に乗り換えて田原町。日本浪曲協会で午後七時に始まる勉強会に間に合った。富士綾那さんは、現在日本浪曲協会会長を務める東家三楽さんが富士路子を名乗っていたころの入門で、実子に続く二番弟子である。

この日の番組は、妹弟子の東家三可子さんを前読みに迎え、全二席。

「三囲塚の由来」東家三可子・曲師:水乃金魚

「陸奥間違い」富士綾那・曲師:水乃金魚

若手の勉強会だから、と甘く見て遅く行ったのだが会場は満席で、舞台袖に座ることになってしまった。綾那さんは椎橋綾那の名前で芝居もやっているので、そちらのお客さんも来ておられたらしい。どちらの道でも成長するのを見るのが楽しみだ。

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