街てくてく~古本屋と銭湯、ときどきビール 2019年8月・草津温泉「ABCブックス(新刊書店)」

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8月某日

そういえば青春18きっぷを使って、日帰りで草津温泉に行ってきたのであった。

草津はお気に入りの温泉なので日帰りで通うのは初めてではないが、思い出したことがあったので書いておく。かの地には日本で最も標高の高い場所に建つ書店があるのである。話の種に一度覗いてみようと思う。

高崎線で高崎駅まで行き、2分の乗り換えで8時53分発の吾妻線大前行に。これが長野原草津口に着くと、またもや4分ぐらいの短い時間で草津温泉行きのJRバスに乗り換えられる。毎回間に合うかひやひやするのだけど、乗り遅れたことがないので経験則としては大丈夫なのだろう。この日も無事にお客さんが全員乗り込めた。

延々と山道を走って草津温泉のバスターミナルに着く。ここから下って行けば湯畑なのだが、そうせずにターミナル前の坂を上る。そうすると2、3分ですぐ見えてくるのがABCブックスである。左右シンメトリーなファザードがいい味を出している。

中に入ると縦長で、中央に文庫と単行本の棚、向かって右がコミックや児童書、左が雑誌と文房具といった構成になっている。事前情報で、けっこうご当地の本があると聞いていたのだが、なるほど単行本の棚に山歩きや、山菜やきのこなどを使った料理の本が置いてある。これを、とも思ったのだが結構値が張る。記念に買うには少々お高めだ。裏の文庫棚で「長野」か「草津」もしくは「温泉」にちなんだ本、できれば小説か随筆を探そうとしたのだが、これまた適当なものが見当たらない。新田次郎『八甲田山死の彷徨』か夏目漱石『二百十日・野分』あたりの文庫本があればよかったのだが。しばらく探して諦め、店を出る。

来る前には不純な目的もあって、棚が化石化し、新刊書店として営業しつつ、実は中古も売るような本屋になってはいまいか、と思っていたのであった。そういう本屋をあちこちで見つけているので、もしかすると古本屋にカウントできる店かもしれぬ、と邪な期待を抱いていたのだが、失礼しました。ABCブックスは立派な新刊書店でした。棚も風化してはおりませぬ。

店の中にいる間に、地元の旅館の人らしき高齢の女性がやってきた。

「今、コンビニでコピーをとろうとしたんだけどアルバイトの態度が悪かったんで、帰ってきちゃった。こちらでお願いできる」

「ごめんなさい、うち、コピーはないんですわ」

「あらあ。そうなの。ここまで上がってきちゃったのに。いえさあ、アルバイトがさあ、コピーは自分でとってもらわなきゃいけないって言うから。私、目が悪いでしょう」

「ああ、でもコピーはどこでも自分でとらないといけないですね」

「そうかねえ。ここにあればよかったんだけど」

「まあ、ないですからねえ」

お客さんに同情するかと思えば、けっこうぴしゃりと意見をしている。そもそもコピーがないのだから仕方ないのか。そのお客さんが苦労して登ってきたという坂を下って湯畑へ。8月最後の土曜日ということでごった返しているかと思いきや、案外人が少ないのである。日本人ばかりで外国からのお客さんもいない。

あらあら意外、と思いながら湯畑そばの御座之湯へ。ここは湯畑と万代二つの源泉を同時に楽しめる公衆浴場ということなのだが、他に比べて湯温が低い気がする。草津というと噛みつくような湯に慣れているので少々意外で、これなら無料の白旗の湯あたりにでも入ればよかった、などと思いつつ、それでもゆっくり浸かる。新しい湯なので、長居するのにはいいのである。湯を出て階上に行くと、休憩所になっていてそこかしこで座布団を枕に昼寝をしている人がいる。窓が縁台のようになっていたので、腰掛けて涼みつつ、来る途中から手をつけていた阿津川辰海『紅蓮館の殺人』ゲラを最後まで読み切った。今年の夏はこうやって終わったのである。

そういえば、日本でいちばん標高の高い古本屋はどこなのだろうか。軽井沢のあそこか、はたまた。

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