街てくてく~古本屋と銭湯、ときどきビール 2019年9月 南柏「フィールズ南柏古本まつり」・南流山「ブックジャム」・浅草「地球堂書店」

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ブックジャムと私。

9月某日

一日お出かけと決めていたので、早めに家を出る。東京メトロ千代田線・日比谷駅から常磐線直通の我孫子行きに乗り、四十分ほどかけて南柏駅へ。風情ある古本屋の書斎が無くなってしまってすっかり来なくなった街だが、駅前のフィールズ南柏で古本まつりが開かれており、最終日だったのである。目的の場所はすぐ目の前なので、空中歩道を通ってフィールズ南柏へ。二階の扉を入ってすぐ左が会場で、奥に向かって細長く本棚が伸びている。

■まずは古本まつりで小手調べ

ざっと見て歩く。おおっという発見はないが、これなら買っていいと思うような本がごろごろしており、日曜朝の楽しみとしてはちょうどいい。何冊か文庫でも買っていこうかと思ったが、大瀧啓裕編の『悪魔の夢 天使の溜息 ウィアードテイルズ傑作選』(青心社)が手頃な値段で出ていたので買うことにする。収録作はハワード・フィリップス・ラヴクラフト「サルナスをみまった災厄」、フィッツ・ジェイムズ・オブライエン「チューリップの鉢」、マンリイ・ウェイド・ウェルマン「謎の羊皮紙」、エイブラム・メリット「森の乙女」、ロバート・ブロック「僧院での饗宴」、クラーク・アシュトン・スミス「柳のある風景画」、アーサー・J・パークス「影のつどう部屋」、テネシー・ウィリアムズ「ニトクリスの復讐」、ジャック・スノー「夜の翼」、ロバート・E・ハワード「大地の妖蛆」で、編者によるウィアード・テイルズ小史と文献目録が付いているのが嬉しい。どの作品も他のアンソロジーで読めるし、青心社文庫のウィアード短篇集に収録されているけど、そっちは逆にあまり見かけないので、この本も持っていていいのだ。オリジナルだし。

もう一冊、隣のシマで角山榮・川北稔編『路地裏の大英帝国 イギリス都市生活史』(平凡社)が200円という格安で転がっていたので拾う。イギリス近代文学を読む上での恰好の参考書で、ダブりだけど他の人にも読ませたいので持っていく。見たら何か所か赤ボールペンで線が引いてあった。まあ、許容範囲だろう。

レジで確認したら参加店舗の一覧が貰えた。柏・柏林堂、船橋・古書カンカン、流山・ブックジャム、板橋・坪井書店、さいたま・キクヤ書店、入間・茶々文庫。このうち、店舗営業しているのはブックジャムと坪井書店、茶々文庫か。古書カンカンはコミックカンカンとして営業していたと思うが、今でも店舗はあるのだろうか。

少し待てば柏の太平書林が開くのだが、今日は他に予定があるので南柏から退散する。常磐線の新松戸で武蔵野線に乗り換えた。次の南流山でつくばエクスプレスに乗り、浅草の木馬亭に行くのである。

駅から出て気が付いたが、さっきの古本まつりにも参加していたブックジャムは、すぐ近くにある。時間はないのだけど、ちょっと見てくるぐらいは大丈夫だろう。そう思ってつくばエクスプレスに続く地下への階段脇から透かし見ると、本屋らしき看板が見えた。あ、あそこだ。歩いても数十秒の距離である。

店頭にバンが止まり、男性が均一棚に本を入れ直す作業をしている。おそらく開店してからあまり時間が経っていないのではないか。その均一棚をさっと見て、店内に入った。何しろ時間が十分もないのだ。手前に帳場があって、二本の棚が縦列で置かれている。どの棚の前にも1メートルぐらいの高さまで本が積まれており、どけないと全部を見ることはできなそうである。時間がないので、完全に確認することは諦め、めぼしいところだけを見て歩くことにする。私の関心領域である文学書などは右のエリアに点在しているのだが、このお店、分類がぼんやりしていて、教養書と雑学本、全集本などが棚で混ざり合っている。突然新田次郎の山岳小説集が出てきたりして油断がならないのである。後日また来て今度はしっかり見ることにする。本日は空手で失礼。

■木馬亭で昼夜、玉川太福大盛況

つくばエクスプレスの浅草駅には12時前に到着した。ここから昼夜、浪曲公演である。

まずは昼席、日本浪曲協会の月例公演だ。

重の井子別れ 富士綾那・沢村豊子

絵姿女房 澤雪絵・佐藤貴美江

慶安太平記箱根山 木村勝千代・沢村豊子

天保水滸伝平手の駆け付け 玉川奈々福・沢村美舟

仲入

闇に散る小判 東家孝太郎・美舟

四谷怪談お岩の最後 神田京子

祐天吉松 玉川福助・沢村豊子

大新河岸の母子河童 沢村孝子・佐藤貴美江

特筆すべきは前半で、木村松太郎の弟子で最後の木村派である勝千代が師匠譲りのお家芸である「箱根山」の見事な道中付けを披露すれば、続く奈々福が「勝千代さんが木村派の伝統芸をお聴かせしたので、私は玉川派の天保水滸伝を」と「平手の駆け付け」で応じる。こういう芸の上での意地の張り合いは大歓迎である。毎月恒例で勝千代対奈々福、やってくれないかな。

終演は16時。ちょっと時間に余裕があるので、すぐ近くの地球堂書店をさっと見に行く。観光客で賑わう煮込み横丁を抜けたところに、整備されて綺麗になった店舗がある。ご夫婦だろうか、年配のお二人がいつも仲良く店番をされている。ここは演芸本や昭和の文学書などが状態もよく陳列されているのだが、値付けが相場よりも若干高くてなかなか手が出ない。本日も素見のみでご免蒙る。

夜は同じ木馬亭で玉川太福独演会である。初の日曜開催なのだそうだが会が始まって以来の大入りで、通算来場者2千人に到達したとか。キリ番になったお客さんに記念品が贈呈されることが告げられると場内がわっと沸くが、それが「地べたの二人」の作業服であると聞かされて若干引く。「次は三千人ですが、今のを聞いて来場のモチベーションが下がったりはしてませんよね」と太福さん。

演目は以下の通り。曲師はいずれも沢村みね子。

ゆう子のスマホ完全版(購入編)

ゾンビ浪曲

仲入

男はつらいよ 寅次郎忘れな草

映画「男はつらいよ」を浪曲化するシリーズの最新作がこの間ネタおろししたばかりの「寅次郎忘れな草」で、浅丘ルリ子演じるリリー松岡初登場の巻である。太宰久雄のタコ社長と二代目おいちゃんの松村達雄の失言で寅次郎が立腹して家を出ようとする演出など、後年の映画の基本形が出来たのはこの作品からではないだろうか。私も何度か見て印象に残った場面が多い。太福浪曲はそれを拾って再現していた。最後の、上野駅地下の食堂でさくらと寅次郎が別れる場面などは、映像が見事に蘇ったように思う。シリーズの中でもかなり上位に入る出来ではあるまいか。次作も楽しみ。

終演後、いつものTさんと田原町行きつけの居酒屋で浪曲談義をしていたらうっかり過ごしてしまい、上野駅からタクシーで帰る羽目に。長い一日おしまい。

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