街てくてく~古本屋と銭湯、ときどきビール 2019年7月・片浜「書肆ハニカム堂」

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はるばる来たぜ片浜。駅前には橋本聖子議員のポスターがやたらと。

7月某日

青春18きっぷの季節が始まった。前回は主に静岡県の東海道線沿いを周ったのだけど、この夏はどこに行こうか。どこまで行けるだろうか。

とりあえず朝一番で駅に駆けつける予定だったのだが、宮迫博之氏と田村亮氏の謝罪会見をネットで観始めてしまい、出発が2時間半ほど遅れる。あれは通しで観てしまう。

昔、BSフジが開局したばかりのころ、月に1回のペースで情報番組に出ていたことがあった。当時はまだ会社員だったし、最近で言うところの闇営業、昔の符丁のショクナイというやつだったのでものすごくリスキーだったのだが、BSなんて誰も観ていないのか、出演を咎められることはなかった。

あれはたしか27時間テレビを放送している日だった。局のスタジオから出ようとしたとき、靴先に軽い衝撃があった。そこにしゃがんでいる人がいて、尻を蹴っ飛ばしてしまったのである。

びっくりした顔で振り向いたのが、宮迫博之氏だった。

もちろんすぐ謝ったのだけど、特に怒ることもなく、こちらこそおかしなところにいてすみません、で話はおしまい。どうやらそこで電話をかけていたらしい。悪気はないとはいえ、芸能人のお尻を蹴るという経験は滅多にするものでもないので、印象に残っている次第である。そういえばその夜は、エレベーターに乗っていたら高島彩他の有名アナウンサーが後から駆けこんできて驚いた、などということもあった。局の中がお祭りみたいに浮ついていた。私の出ている情報番組はBSなのでまったく関係なかったのだけど。

そんなことはまあ、どうでもいいのである。かなり宮迫氏と田村氏に同情しながら会見を観終える。もう正午近い。今からでも行けるな、と頭の中で計算をして家を出た。

横浜駅から下りの東海道線に乗る。小田原駅で熱海行の快速アクティーに乗り換え、さらに浜松行きに。接続が悪くて手間取ってしまったが、14時半過ぎ、ようやく目的地に着くことができた。

沼津の一つ先、東海道線の片浜駅である。

『東海道でしょう!』で最初に歩いて以来何度も通り過ぎている駅だが、列車の乗り降りをするのは初めてである。対面式のホームにエスカレーターはない。陸橋型の駅舎で改札を出て、南口の階段を降りる。ロータリーに出てみると、駅前の道が二百メートルほど先で東西に走る道路にぶつかっていることがわかった。それが旧東海道である。その向こうに見えている樹木の連なりが、駿河湾に面した千本松原だ。

歩き慣れた東海道に出て、西を目指す。ここから四百メートルぐらい行ったところに本日の目的地、書肆ハニカム堂があるのだ。

沼津には老舗平松書店がある。実は先日も行ってきたばかりなのだが、この前の青春18きっぷの時期にはなかなか開いている日にぶつからず、遠征しては空振りということを繰り返したのである。沼津の古本屋は他にもあって、三島駅と沼津駅のほぼ中間、御殿場線の大岡駅から南に下ったところにweekend booksというお店がある。古本だけではなく雑貨なども扱い、積極的にイベントもやられている地元の人気店だ。こちらにも時間があれば足を伸ばすつもりだったのだが、出発が遅れてしまったので今日は見送った。weekend booksとは言うものの定休は木、金曜日である。こちらの書肆ハニカム堂は違う。土日と祝日だけの営業(ときどき平日の夜も)という正真正銘の週末店なのだ。これまでの遠征は平日が多かったので、いつもお休みにばかり当たっていた。今日こそ開いているハニカム堂を拝むのである。

見慣れた道をしばらく歩く。『東海道でしょう!』で足が痛くなって、泣きたいような気持にさせられたのがこの沼津・原間だ。歩道が狭くて文句を言いながら歩いたっけ。

ほどなく前方左に見えてきた。以前もお米屋とか、商店として営業していたのではないかと思われる佇まいの建物だ。書肆ハニカム堂の看板が大きく出ているわけではないのだが、店頭に均一本の箱が出ているのですぐにわかる。駆け寄りたい気持ちを抑えて、まずは写真撮影。記念すべき初訪問である。

均一箱は一般書と漫画。中に入ると左側に文庫や文学関係の棚、右側にややレア度の高い単行本を収めたコミック棚がある。文庫はちくま文庫などの趣味度が高いものが多く、文学系ではご当地作家藤枝静男の名前が目立った。探偵小説系の本も、それほど珍しいものはないがなかなか充実している。帳場はその棚に隠れていて入口からは見えないが、人の気配を感じる。帳場前にもちょっと珍し目の本が並べられていた。正面にテーブルが出ていて、机上にはミニコミ誌や小出版系のものと思われる新刊が置かれている。右側コミック棚のある方の壁際は空いていて、その前にやや張り出した形で棚が。そこは音楽などの関連書が多かった。正面奥には箱入りの文学書や歴史・民俗書が。足元に「東北学」のバックナンバーなども積まれていたので、そのへんが店主の専門なのかもしれない。

店主は眼鏡をかけた男性である。私のあとから地元のお客さんなのか、顔見知りらしい初老の男性が入ってきて、店主と言葉を交わして出て行った。しばらく見ていると、店主がアイスコーヒーを振る舞ってくれた。それを機に、ちょっとだけお話をする。近くの方なんですか、と聞かれたので正直に、いえ、実は東京から来たんです、と答えると、あ、あの青春18きっぷの、と驚かれた。実は、前日にこんなツイートをしていたのだ。

「実は前にも東海道を歩いていたときにここは通ったのですが、そのときはお店はなかったですよね」

「そうなんです。ここは二年前ぐらいに始めて」

「以前、東田子の浦の駅前にgrow booksさんという本屋があったと思いますけど、今は閉めちゃいましたよね」

「そうなんです。grow booksさんがお店を休まれてこのへんに本屋が無くなったというのもここを始めたきっかけでもあるんです。grow booksさんには、うちの本を置かせてもらっていたんですけど」

「それ、見ました。店舗内店舗みたいな形で、古本が置いてありました」

「そう、あれがうちなんですよ」

思わぬ縁である。ちなみにgrow booksは完全に無くなったわけではなくて、希望者に本を配達する、という形で営業は続けているのだそうだ。店内にその案内チラシも置いてあった。東海道の古本屋事情を教えてもらってたいへんにありがたい交流ができた。ちくま文庫棚から内田正『弁天山美家古 これが江戸前寿司』、内田榮一『弁天山美家古 浅草寿司屋ばなし』、実相寺昭雄『ウルトラマンの東京』を、その他講談社ノベルスの戸川昌子『幻影家族』を購入し、帰路に就く。ここから3時間かけてまた戻るのだ。

さあ、青春18きっぷの季節の到来である。

2017年6月に訪れたgrow books。このあと店舗はお休みしてしまったのだ。

東海道でしょう! (幻冬舎文庫)

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