街てくてく~古本屋と銭湯、ときどきビール 2019年3月静岡行・その10 富士「中村書店」

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頭上にそびえる大村バーの巨大な看板

(承前)

熱海にて夢のような出会いがあり、ぽうっとしながら東海道線の下りに乗る。なんだったらもう帰ってしまってもいいぐらいなのだが、この日はまだ用事の続きがあるのだ。静岡に1泊し、ほぼ1年ぶりに東海道歩きに挑戦するのである。夕刻に同行者の妻と待ち合わせしているのだが、それまで時間が空いている。これはまあ、古本屋に行けという天の啓示であろう。いや、自分で調整したんだけど。

東海道線沿いの古本屋はあらかた静岡までは回ってしまっている。沿線の私鉄駅近くに行ってない店があるのだが、今回は見送りである。となれば候補はあそこしかない。熱海駅からまたしても島田駅行きに乗り、一路目指したのは富士駅である。

■富士山方面へ向けて歩く歩く、歩く

富士駅。東海道歩きを始めるまでは一度も下りたことがなかったこの駅に、いったい何度下車し、泊まったことか。そのすべては東海道歩きのためだったのだが、今回は違う。古本屋に行くのである。うっはあ、目的が違うとなんだか興奮してくるわ。

駅を北口に出る。駅周辺だけはやや変則的な街並みになっているが、バス通りはひたすらまっすぐである。それをどんどん歩いていく。歩いて歩いていい加減飽きたな、というところに見えてくるのが、ビジネスホテル中島の看板だ。その先、道の右側にブックオフがある(後で寄ってみたが、巨大なわりに本の占める割合は少なかった)。さらに進むと同じ右側に見えてくるのが、一見新刊書店のようなファザードの中村書店である。店頭から窺える本の山と、正面入口上の「古本・DVD・VIDEO」の看板からここが古本屋であることがわかる。

入ってすぐ本の山に行き当たる。混沌というほどではないが、古い本が積み上がった塔によって通路が狭くなっているので、大きな荷物を背負っていた私は、それを床に置いた。

店内のいちばん右側のエリアは成人向けの本やDVDの売り場になっていて、帳場前を過ぎてカーテンをくぐらないと向こうにはいけないようになっている。中央の通路には右にずらっとコミック、左に下部は文庫で上部は単行本という壁が並んでいる。これを奥まで行って左通路に折り返してくると、こちらはコミック以外の書籍が中心である。全体は雑本というべき書籍が多く、特筆すべき棚の独自性もない。なのにいきなり、朋文堂の山岳アンソロジー『ザイルの三人』を見つけてしまう私なのであった。以前松本で買ったものよりも綺麗なので、こちらを手元に置いてもう一冊は人にやることにしよう。ダブりながら美本なので購入することにした。その他の発見は特になし。全体的に埃っぽいのだが、中古コミックを買うときなどには重宝しそうである。

たぶんこの店は以前レンタルビデオをやっていたのではないかと思う。成人コーナーの奥にそういう掲示があったし、中央にある「店主のおすすめ」という棚も、以前の業態の名残りだと考えれば納得がいく。新刊もしくは古書の販売とレンタルビデオの両輪で営業していたところ、レンタル業界が急激に衰退し、やむなく古本屋専業になったのではあるまいか。

A・E・W・メイスンのここでしか読めない短篇が入っている『ザイルの三人』。

富士駅までぶらぶら戻り、東海道線に乗る。前述のとおり、今日は静岡泊まりなのである。合流した妻と、今日は多可能ではなく、ホテル近くの大村バーに入った。バーとはいうものの実態は居酒屋である。曲線を描いて延々と続くカウンターに大勢の客が取り付いて飲んでいる。上階は宴会場になっているようだ。冷たいビールで一杯。お薦めという湯豆腐は、思っていたのとは違う、餡でとじた豆腐に砕いた海苔と生姜をかけたものだった。380円で十分な量だから、一人だったらこれだけでもぐいぐい日本酒を飲める。フライ盛り合わせに小があるのも好ましかった。明日のために早めに就寝する。

(つづく)

大村バーにて。静岡はいい居酒屋がたくさんあるいい街。

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