幽の書評VOL.22 雪富千晶紀『死と呪いの島で、僕らは』

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死と呪いの島で、僕らは (角川ホラー文庫)

モダンホラーの伝統に加わる期待の新人

本州から離れること二百三十キロメートル、伊豆諸島の東端に須栄島はある。その浜に一隻の廃船が漂着したことがすべての発端となった。船は一九八八年にカリブ島西沖で消息を絶った米国籍の〈シー・アクイラ号〉だと判明する。しかし一旦は沈没した形跡のある船がどうして太平洋の小島に流れ着くことになったのか、原因はまったく不明である。一方、島の住人たちから村八分の扱いを受けている少女・打保椰々子は、その特殊な能力によって禍々しい事態が出来することを理解していた。

第二十一回日本ホラー小説大賞を受賞した雪富千晶紀『死呪の島』(角川ホラー文庫収録時、『死と呪いの島で、僕らは』と改題)は、架空の小島を舞台にした長篇だ。島国である日本には、遠い海の彼方に〈あの世〉を想定する思想の伝統が存在する。生者を船に乗せて海へと流す補陀落渡海などはその代表例だ。民俗学の祖である柳田國男が晩年になって南島イデオロギーに傾いたように、この思想には日本人の感傷を刺激する要素がある。そこに雪富は切り込んだのである。各章において起きていく変事は、純日本的な怪異譚のように見える表層の下にもう一つの顔を持っている。古い革袋に新しい酒を盛る、すなわち伝統と新奇性との融合を指向するモダンホラー正統の作法に則った作品なのである。主人公の高校生・白波杜弥と打保椰々子の関係がストーリーの柱であり、幼馴染の女性との恋愛を描く「ガール・ネクスト・ドア」のプロットになっている点も魅力の一つだ。怖さと楽しさ、そして切なさ全部入りの贅沢なデビュー作である。

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