幽の書評vol.15 オレスト・ミハイロヴィッチ・ソモフ『ソモフの妖怪物語』

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ソモフの妖怪物語 (ロシア名作ライブラリー)

古代と現代を「妖怪」でつなぐミッシングリンク登場

勇猛なコサックのフョードル・ブリスカフカは、美しい娘・カトルーシャを妻として娶る。だが幸福な日は長くは続かず、ある新月の晩、カトルーシャは怪しげな草によってフョードルを昏睡させようとしてきた。その企みに気づいて夫が狸寝入りをしているとも知らず、彼女は呪文を唱えいずこかへと飛び去ってしまった。新妻は、魔女だったのだ。妻の後を追って悪魔のサバトが開かれる場所へ行くことを、フョードルは決意する。

『ソモフの妖怪物語』は、18世紀末にウクライナで生まれたオレスト・ミハイロヴィッチ・ソモフの、本邦初の翻訳書だ。彼は長らく本国でも忘れられた存在だったが、プーシキンやゴーゴリの先輩格にあたり、文学活動を通じてロマン主義をロシアに広めた功労者だった。特に、ウクライナの民間伝承を題材とした作品群は、キリスト教伝来前の古い民族信仰と近代とを小説という鎖で結びつけた画期的なものであった。醜悪な怪物たちが人間を脅かしながら暴れまわる世界観を本書収録の作品で読むことができる。冒頭に紹介した「キエフの魔女たち」は、ディテール豊かに綴られるサバトの模様に圧倒されるほか、理不尽な運命に巻き込まれた者の哀しみが読者の胸を打つ傑作だ。こうした形で描かれる世界の無情さも、本書収録作品の特徴である。娘を水難で失った母親を主人公にした「ルサールカ」では、投げ出すような形で物語の幕が下ろされ、心細い場所に読者は取り残される。

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