街てくてく~古本屋と銭湯、ときどきビール 2019年1月・大岡山「六畳ブック」自由が丘「東京書房」祐天寺「北上書房」ほか

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祐天寺の名店・北上書房にて。古書展に出かけていない日も多いけど、これだから好きさ。

年末年始は食事制限が甘くなるので、体についた余分な肉を落とすべく、なるべく歩き回っていた。歩いても燃やせる脂肪はわずかで、食べるほうを減らさないとどうにもならないのだけど。

所用があり、家を出たところで、はてどこに行くべきか、と考えた。最近あまり歩いていない付近に足を延ばしたい。となると、横浜の白楽付近か。それとも、もう少し近場を攻めるか。考慮の末、目黒区の大岡山付近、という答えが出た。ここもしばらく足が向いていないのである。大岡山付近は、実は古本屋の密集地帯でもある。

駅の中央口改札を出て左を見ると、道路が走っている。向かって左に行ってすぐある横断歩道を渡ったところにタヒラ堂書店。理工書が強いが、詩歌を含む文学系や社会科学系の硬い本も多く、文庫は時代小説や岩波の国文学などが強い。ラジオに耳を傾ける店長の前でしばらく店内を拝見させてもらった。店頭の均一棚は50円から100円という値付けで、ここに買ってもいいかな、と思う本があったのだが、手を広げすぎることになるので見送った。

このタヒラ堂がある場所から駅の方に道路脇を戻り、二本目の角を曲がる。片側に商店の連なった道を進んでいくと、左側に中古自転車と古本の店・時代やがある。ずいぶんな取り合せだと最初見たときは思ったが、両方とも商いとしては古物扱いなのだろう。店頭に均一棚があり、中に入ると中央の文庫棚を挟んで左側が単行本のエリア。ジャンクっぽい外見だが、ちゃんと選ばれた本が並べられている印象だ。中央の文庫棚は時代小説多めでほとんどが日本の小説。奥のほうにアニメもののカルタがあって心が動いたが、買わず。店主はつなぎを着て自転車の修理中だった。

駅の北側に渡って商店街を抜けていく。奥にブックマート大岡山店。店頭の100円均一ワゴンはけっこう品ぞろえがいい印象だった。店内は特筆すべきことなし。少し戻って東側に路地を入った先に昭和の古本屋の風情を残した金華堂書店がある。いや、あったのだが、ちょっと様子がおかしい。木枠のガラス戸の向こう側には茶色いカーテンが下りていて、お休みのように見えるが、その戸が薄く開いている。カーテンの隙間から見える限りでは、棚は空っぽになっている。もしかすると、お店を閉じてしまったのだろうか。しばらく来ていないので情報不足であり、なんとも言えない。近いうちにまた様子を見に来ることにした。

金華堂書店前の道を北上し、さらに住宅街のほうに入っていく。文章で書くのはむずかしいのだが、上り坂を昇りつめたあたりの住宅街の中に六畳ブックという古本屋が開いているらしいことを最近知ったのだ。ホームページを見ると個人経営で買い取り専門らしく、売上の一部を慈善寄付していることがわかる。来店時には予約してもらいたい旨書いてあるし、そもそも買い取り専門なら行ってもしかたないのだが、グーグルのコメントを見ると、本を売ってもらったらしい人が書いている。とりあえず他日に本来の訪問をしてみることにして、様子だけ見に行ってみた。

本当に住宅街の中にあり、というよりも完全な個人宅である。しかし、敷地延長の露地の片側に「ご自由にお持ちください」という主旨の置き看板と、長い棚が置かれていて、若干の本が並べてある。やはり古本屋さんなのだ。とりあえず事実確認だけして街に戻る。

坂から下りたところに古本カフェ・ロジの木があるはずなのだが、見当たらない。探してみると、さらに一本入った露地にその名の書かれたドアがあった。ただし準備中である。スマートフォンで検索してみると、最近になって夜のみ営業のmiso汁香房というお店に代わったとのこと。営業形態は変わったが、料理の古本は扱っているそうなので、古本屋の範疇からは出ていないようだ。ここも後日再訪してみたい。

さて、ざっと大岡山は回ったものの、残念ながら収獲なしである。いや、歩くことが目的なのだから本は買わなくてもいいのだが、念には念を入れて、という言葉もある。その喩えが正しいか自分でもよくわからないが念には念を入れるのだ。というわけで、東急目黒線のお隣、奥沢にも行ってみることにした。

奥沢には二軒の古本屋がある。キリスト教関係専門のふづき書店とミステリー系に強いPINNANCE BOOKSだ。駅から近いところに二軒ともあるはずなので寄ってみたが、両店ともお休み。PINNANCE BOOKSは店主のツイッターを覗いてみたところ、なんだか心配になってしまった。お元気だといいのだが。坊主のままで奥沢を後にし、距離はたいしたことがない隣の自由が丘まで歩く。

自由が丘にも二軒の古本屋がある。以前は自由が丘デパート地下に絵本と児童書専門のまりら書房があったのだが、気が付かないうちに無くなっていた。まずはマリ・クレール通りの東京書房から。ここは以前路面店だったのが、どういう理由か隣のビルに移って事務所営業になり、もう縁がないものかと思っていたらまた店舗営業を始めたのである。ビルの四階だからえっちらおっちら昇っていくと、階段の途中にお客を励ますかのように文庫や料理本が並べられている。何合目かを示す標識のようだ。店内はほぼ正方形で、手前の右側に雑誌、左側に詩集のエリアがある。左側の奥は珍しい漫画が置かれた棚でその先がレジ。入って右に目を向けると棚が一列あり、こちらを向いている側に文庫、裏側にミステリー・SF関連が並べられていて、児童書などけっこう珍しいものがあった。左側の壁は右端に私の関心事である芸人本のゾーンがあったのと、左端にコーヒーに特化した棚が一列配置されていたのが印象的だった。映画や芸術、オカルトなどサブカルチャー系に強い印象だが、値付けは強気で、この日の予算では見送るべき価格帯だった。目の保養だけさせてもらい、店を出る。また定期的にやってきたい店だ。

踏切を渡り、線路沿いに入ったところに西村文生堂。かつてはミステリーの稀覯書が出ることで名高かった店だったが、美術系と洋書の店に舵を切っているとの情報を得ていた。訪れてみると、なるほどその通り。和書がなくなったわけではないが、気軽に拾えるようなたぐいの本はなく、ここも鑑賞だけに留めて退散することにした。

そろそろ歩行距離も目標に達したはずなので帰宅を、と思ったが、なぜか気がつくと急行で一駅の学芸大学にいた。もののついでというものである。駅近くの流浪堂には年末年始から何度か足を運んでいたのだが、そのたびに休店日にあたっていた。とにかく顔だけ出しておこう。いや、顔を出したところで店は誰だかわからないだろうし、意味もないのだが、などと思いながら店にやってくると、ほらご覧開いている。ああ、開いている開いている、とそれだけで気は済んだのだが、一応中に入って定点観測だけする。良い本が適切な場所に置かれ、心地よい古本屋であると再確認。店を出た。

このあと駅の反対側にある飯島書店を訪れたのだが、そういえばここは金曜定休なのだった。そこで道路を挟んでちょっと歩いたところにある小さな古書店SUNNY BOOKSにも行ってみた。こちらはシャッターが開いていたが、お店の人が前に出ていて普段とは様子が違う。近づいてみると見覚えのある店主が振り向いて、すまなそうに「今日はお休みで」と言うのであった。お休みなら仕方ない。もののついでに寄っただけなのでまた、後日。

さあ、いよいよ坊主決定である。すでに十キロ超を歩いているが、一冊も本を買っていない。いや、我が家書棚の現状を考えればまことに正しいことなのである。本は増やすべきではない。これは天のお告げであろうと、近くの銭湯、千代の湯で疲れを癒し、今度こそ本当に帰宅することにした。充実した一日であった。

千代の湯にて。銭湯は裏切らない。

と言っていたにも関わらず、一時間後、なぜか学芸大学の隣駅・祐天寺近くにいた。ミステリー専門古書店の赤い鰊こそなくなってしまったが、まだここには北上書房がある。北上書房にも年末年始ふられまくっていたのだ。定点観測、定点観測と呟きながら線路沿いにあるお店を目指す。

北上書房は社会科学と歴史系の専門書が豊富な、硬い硬い古書店だ。しかし文庫棚も店内に二面あり、店頭には均一棚も出ている。決して庶民の入れない店ではないのである。とはいえ、これまで店頭では何も買ったことがないんだよなあ、と思いつつ眺めていると、意外なものが。休刊した「落語界」の別冊『愛蔵版昭和の名人たち』があるではないか。でもお高いんでしょう、と通信販売番組のサクラ風に呟きながら値付けを見たら、間違いなくこれは均一棚的価格。ああ、しまった。祐天寺まで来たばかりに本を買うことになってしまった。嬉しさ半分後悔半分である。しかし読んでみたところこの本、他では見ない対談や弟子による師匠回顧などがあって資料価値は抜群であった。困るなあ、落語界のバックナンバーを集めたくなるなあ、などとこぼしつつ今読んでおります。

文楽が袖を引いているところを見ると、「妾馬」だね。

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