杉江の読書 木下昌輝『戦国24時 さいごの刻』(光文社)

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51cplrwfinl-_sx338_bo1204203200_ 主人公の最期をクライマックスに据えると予告し、溯ってそこに至る筋道を綴る。

サスペンス小説としてはそれほど珍しくないが、それを時代小説の連作短編で行ったという点に新味がある。木下昌輝『戦国24時 さいごの刻』はそうした作品だ。

収録作は六篇、巻頭の「お拾い様」で死へのカウントダウンを数えられるのは、豊臣秀吉の遺児・秀頼である。二回にわたる徳川勢の大坂攻城において、豊臣側武将の足を引っ張ったのは秀頼の母・淀殿の理不尽な下知だった。夏の陣においても淀殿は貴重な機会を潰す。秀頼自ら出陣して威光を及ぼせば、いまだ旧君の恩を忘れない武将らの軍の足並みは乱れ、隙も出てこようというのだ。しかし回天の妙案というべき真田左衛門尉のこの献策を、淀殿はにべもなくはねつけた。大阪落城が決定した瞬間である。

天下に覇を唱えるために上洛の挙に出た今川義元や将軍職でありながら塚原卜伝免許皆伝の剣士であり最後は壮絶な戦死を遂げた足利義輝など、錚々たる武将たちの最期が描かれていく。物語の幅は24時間以内という決まりがあるため、死に向かう出来事に関心が絞られているのがよく、各話ともだれる個所はない。ただし、頻繁に時刻を知らせる案内が出てくるためにどの場面も短めになる。読者の好みが分かれる点だが、作者としては残り時間を告げることで焦燥感を煽る効果を優先したのだろう。

ミステリーの要素をうまく利用しているのも本書の美点で、たとえば「お拾い様」では、なぜ淀殿は愚策にこだわり続けるのか、という関心が最後まで持続して読者を牽引する。「山本勘助の正体」は、謎に満ちた軍師の正体を突き止めて息の根を止めようとする者の物語だ。正直に書くと前作『天下一の軽口男』には長篇の分量を持て余したような印象があった。現時点の作者には短篇が適しているのだと思う。本書に限っていえば六篇すべてで引き締まった物語を堪能できる。

(800字書評)

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