落語会レポート「第67回人形町らくだ亭」でチャーミングな幽霊に心を射抜かれる

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「第67回人形町らくだ亭」日本橋公会堂20160825

予告が出たときから絶対にこれは行かなければと思っていた会である。小学館のサライ編集部が後援する形で続けられている会であり、レギュラー制をとって長年続けられている。八代目桂文楽の弟子・柳家小満ん、五代目柳家小さんの弟子・柳家さん喬、十代目金原亭馬生の弟子・五街道雲助、五代目春風亭柳朝の弟子・春風亭一朝、三代目古今亭志ん朝の弟子・古今亭志ん輔と、昭和の落語史を彩った名人の弟子が複数出演するという顔付が魅力的であり、そこに毎回強力なゲストが加わる。今回は三代目三遊亭小圓朝と五代目三遊亭圓楽を師とする三遊亭圓橘で、これを聴かなくてなんとするという顔ぶれである。

以下に演目を。この布陣を見てください。

開口一番 手紙無筆 小駒

汲み立て 雲助

牡丹燈籠 お峰殺し 圓橘

仲入り

蔵前駕籠 一朝

応挙の幽霊 小満ん

パンフレット。ちょこちょこっと字が書いてあるのは、応挙の幽霊のメモです。

パンフレット。ちょこちょこっと字が書いてあるのは、応挙の幽霊のメモです。

金原亭小駒は十代目馬生の孫だ。これまで機会がなく、高座に当たったのはこれが初めて。

雲助の「汲み立て」は清元の師匠を狙う若い衆たちが、師匠に男が出来たのに腹を立てて、涼みの船を妨害しに行こうとする噺である。つまり横恋慕であり、とても野暮なのだ。その野暮さ加減、男たちの情けない感じを飄々と描いて気持ちいい。鳴り物が入って伊勢参りも楽しく聴いた。

「お峰殺し」の舞台は日光街道の栗橋宿で、街道を踏破したことのある身にとっては、ああ、あそこだ、と懐かしく目に浮かぶ。主が幽霊に呪い殺されるのに加担してしまい(「お札はがし」)江戸を売った伴蔵・お峰の夫婦がこの地で店を開いて成功するのだが、伴蔵の浮気が露見したために夫婦の間にひびが入る。噺の大半はその伴蔵とお峰のやりとりを綴っていく。圓橘の口調が重々しく、息詰まるような緊張感が産まれていた。途中でじれたように伴蔵が扇を煽ぎたてる描写もよい。

一朝の「蔵前駕籠」も申し分なかった。幕末、吉原通いの客を狙って浪士の追いはぎが出没するようになり、夕過ぎには駕籠屋が客を断るようになる。そこをあえて、と言い出す客が現れるのだが、この江戸っ子の客が実によく、お決まりの「女郎買いの決死隊だね」の台詞の前に客は完全に出来上がっていた。横恋慕、浮気、女郎買いときて、この日のテーマが艶めいた噺であることに改めて気づく。

そして「応挙の幽霊」である。市で買った幽霊画が実は円山応挙作で、儲かったので道具屋が祝杯を上げる。そこに絵の中の幽霊が抜け出してきて、差し向かいの酒宴になるのだ。男と女のしっぽりとした酒を幽霊でやるのがおもしろく、しかもこの幽霊がなかなかの酒好きなのである。小満んの応挙の幽霊は、道具屋が飲むのが年代物のスコッチ(これも市で買ったのである)で、「スマグラーというのは密造人のことで」「月の光の下で作業をしたからムーンシャインというんです」などと蘊蓄が入るのが楽しい。幽霊に捧げた分の酒がいつの間にかなくなっているのを見て「天使の飲み分」のフレーズが出てくるあたり、もう完璧である。幽霊のほうもハイカラで、酒を注がせるのに「ワンスモア」と英語になる。この台詞のイントネーションが実にかわいらしかった。またどこかで聴きたいものである。

とても満足した会である。人形町らくだ亭、次は10月26日(水)で、五街道雲助「淀五郎」の予告が出ている。ゲストは三遊亭金馬だそうだ。おお。

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