落語本・『桃月庵白酒と落語十三夜』が出ました

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51xL2iqzvzL._SX339_BO1,204,203,200_ 本日(9月2日)あたりから全国書店で『桃月庵白酒と落語十三夜』(KADOKAWA)が販売開始になる。電子雑誌「文芸カドカワ」創刊号である2014年1月号から2015年1月号まで連載された「落語研究会ただいま女子部員募集中!」を母体にした本で、忙しい白酒さんに毎月角川まで来ていただき、杉江がお話を伺うという形式をとっていた。落語には季節のネタがあるから、最初は歳時記のように毎月1つネタを選んでそれについて話していただこう、という趣旨だったはずである。それがなぜ「落語十三夜」になったかといえば、私も、編集者も、当の白酒さんも最終回が13回目であることに気づかなかったからだ。第12回にあたる「らくだ」の収録を終えたあと、「次がいよいよ最終回ですね」「なんか、毎月ここに来て話をするのが当たり前になっちゃったので、もう終わりかという気がしますよ」というような会話を交わしていたのだから間抜けだ。いや、あのまま「え、まだ1年経ってませんよ」と言い張ってずっと連載を続ける手もあったか。

この連載はもともと「文芸カドカワ」編集長であるカネコ氏に私のツイートが補足されたことから始まっている。それが正確にいつだったのかは忘れたが、ツイッターで「落語に本当の初心者向けガイドがないのはもったいない。みんなお勉強させようとしている」「女性落語家が増えてきたが、本来男性のために作られた古典落語を女性向けに改作する試みは遅れている。○○なんかはヒロイン視点にしてしまってはどうか」というようなことをずっと書き散らしていたら、DMで「やりませんか」という連絡が入り、後日「実は『文芸カドカワ』という雑誌を作るんですが、そのコンテンツとしてやってみませんか」という具体的な話が出た。その時点ではまだどなたに話を伺うかというところまでは決まっていなかったのだが、カネコ氏には伏せていたものの私の中には「白酒さんしかないかも」という思いがあった。

私がそう考えたのは白酒さんの自伝『白酒ひとり壺天の中』を読んでいたからだ。実は白酒さんは私と同い年、東京都と鹿児島県で生まれた場所は違うものの、同じ時代の空気を吸ってきた。同じ歳に「たけしのオールナイトニッポン」が始まり、同じ歳に「ブルース・ブラザース」を観ているという体験は貴重である。それで勝手に「白酒さんならいわゆるサブカルチャーにも目配せした話ができるのではないか」と思った次第。カネコさんから打診してもらったら、一発でOKが出た。最初にお会いしたのは上野の風月堂で「書くのはたいへんですけど、書かなくていいならやりましょう」とおっしゃってくださった。

大きな誤算は、私たちが思った以上に白酒さんが落語の話をされる方だったことである。いや、落語協会の押しも押されぬ人気真打を前に申し訳ないことを書いているが、もう少し照れというか茶化す態度でこられるかな、とも思っていたのだ。しかし、いざ落語の話が始まると白酒さんはけっこうマジで、時には聞き手二人を前に具体的な仕草や台詞の実演をしてみせながら、ご自分の落語観を語られた。そのへんの芸談部分が本書第一の読みどころだと思う。

連載時のタイトルは「落語は男社会ですけどいつでも女性の新規参入どうぞ」という意味である。そのためカネコ氏に女性の立場から「え、それはどうなの?」というツッコミを入れてもらっていた。単行本化にあたってその個所をどうするか迷ったが、白酒さんの落語についての語りを重視するということで、聞き手である私と白酒さんの対談形式に変えてある。しかし連載時にも反響があった白酒さんの個人的な件、高校時代に野球部で集団下校しながら彼女のいるやつを追跡していた話とか、落語研究会の部室にたまって「酢豆腐」のような日々を送ってきたころ、プロになってからのひとつばなしといった話題は、変えずに収録してある。落語の本、と思って読み始めると随所に白酒さんの顔が浮かんできて、楽しくなるはずだ。それが第二の読みどころ。もしあまり落語におなじみのない方がこの本を手にとってくださるならば、ぜひ落語と白酒さんの両方を好きになってもらいたい。

本書は、落語についての杉江の本格的な著作第一弾である(実は以前にもちょこちょこと落語仕事はしているのだが、それはおいおい)。落語界から受けた恩恵のほんの一部でもこれで返せたらと思うのである。10歳のころの初めて寄席にいった私に、「おまえは50歳を目前にして落語の本を刊行するだろう」と言ったらどういう顔をするか。「え、ほんと」と喜ぶか。それとも「遅えよ」と舌打ちされるか。遅くなってごめんな。

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