先々週日曜日はまだ愛知の続き。とりあえず名古屋にいたら絶対に行きたい古書店を二軒回っておく。桜通線で今池まで北上し、下車して今池の山本屋で味噌煮込みうどんを食べる。山本屋にもいろいろあって、ここは街の蕎麦屋の風情だ。そこから歩いてシマウマ書房へ。近所の人人堂はお休みだった。いつ来ても絶対に空手で帰ることのない古本屋だが、この日はよこたとくおの曙出版、『右むけヒダリくん』があったのでありがたくいただく。妙に安かったのは、貸本上がりなのかビニール装を施したために表紙が波打ってしまっているからか。読むには問題ないので私はこれでいい。
今度は東山線に乗って終点の藤が丘まで行く。みんな大好き千代の介書店が目的地だ。高齢のご主人はあと数年で店を閉めるとおっしゃっているが、この日伺ったら最近は全然お客さんが来ない、とこぼしておられたぞ。ご主人のやる気をそがないためにも定期的に巡回をしなければ。ここでも掘り出し物があった。佐木隆三の初期短篇集『埋火の街で』(河出書房新社)だ。『復讐するは我にあり』以前の佐木隆三はあまり見かけないからありがたいのである。勘定を済ませて出るまでに二人ばかり同好の士が入ってきた。よしよし。
ここからどうするか。鳴海に住む伯母の家を訪ねることになっているのだが、まだ時間が早い。鳴海には実は宿題店があり、行っておきたいところではあるが店構えからしてあまり収穫は期待できなそうなのだ。考えた挙句、東海道線沿いの未訪店を潰しておくことにした。
旧東海道は豊橋からJR沿線を外れて名鉄沿線に入る。そのため以東の東海道線沿いは若干手薄になっていた。岡崎の次に古本屋があるのは蒲郡の花木堂書店で、そのあとはずっと西に行った熱田の言ノ葉堂と伏見屋書店(閉店)までない、と思い込んでいたのだがさにあらず。刈谷駅にあじさい堂書店があったのだ。碧南地区で唯一の個人営業古本屋ということになる。ここを見落としていたのは迂闊であった。
刈谷までは藤が丘から東山線で千種まで行き、そこからJRに乗り換えて中央線でまず金山へ、そして東海道線ということになる。一時間弱の旅程だ。
駅を降りてデンソー本社のある側に出る。そこから十分程度なのだが、GoogleMapで示された道筋が途中で風俗店街に突入したのでびっくりした。まだ明るいというのに客引きと女性が店の前に立って、呼び込んでいる。私も声をかけられたが、よほど物欲しげな顔をしていたのか。欲しい物はこの場合違うのである。
しばらく歩き、街並みがちょうどいい感じに寂しくなってきたあたりであじさい堂書店を発見した。やっている。よかった。
中に入って驚いたのだが、地方にぽつんとある古書店と思って期待せずに来たら、とんでもない実力者だった。中央に三列縦に棚があって四本の通路がある。縦の通路は文庫や新書などが主だが、壁際やいちばん左の棚には郷土史を始め資料性の高い本がぎっしりと詰まっていた。中京競馬場前駅の安藤書店を敷坪倍にしたような塩梅である。いちいち見とれてしまう。買おうと思えばどの本も買える幸せな状態で、しばし見惚れた。植物や動物など自然科学系の本が充実しているのは、ご主人にそういう趣味がおありだからなのかもしれない。1時間ほど滞在して数冊買い、外へ。
ここからは名鉄線の出番である。知立駅まで行き、乗り換えて鳴海駅へ。もちろん駅前の鶴亀堂書店2号店には寄らいでか。もともとコミックが強い古本屋だったが、さらに拡充され、希少本コーナーが増えていた。一般書は少なくなっていたが、それでも古めの文庫コーナーには珍しいものがある。これですっかり満腹してこの日はおしまい。翌日は午前中に出なければならない事情があるので、今回の愛知古本行はこれで終了である。