書評 一覧

小説の問題vol.60「二つのロマン 重箱の隅つつき風案内」多島斗志之『汚名』 ・高野秀行『幻獣ムベンベを追え』

トリヴィビアルな知識を披露するのがはやっているらしい。たとえば「カーネル・サンダース人形の眼鏡には、度が入っている」などと。酒場の暇つぶしにいい、害のない知識である。深夜番組「トリビアの泉」あたりがその元か。この手の知識は好きなので、私もいくつか披露を。まず一つめ。 「太平洋戦争中に処刑された最高の外国人スパイと、太平洋戦争の最高戦犯と...

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【再掲】6/16(日) 鬼子母神通り みちくさ市古本フリマ参加と「ミステリちゃん」公開収録のおしらせ

【再掲】6/16(日) 鬼子母神通り みちくさ市古本フリマ参加と「ミステリちゃん」公開収録のおしらせ

いくらなんでも本がダブりすぎた。 というわけで、書棚を圧迫するダブり本処分のために、二年ぶりくらいに「松恋屋」で一箱古本市に参加します。 わめぞさんの主催する第47回鬼子母神通りみちくさ市の古本フリマです。昨日参加申し込みをして、正式に受諾されました。 ◎日時 2019年6月16日(日)11:00頃から16:00まで ...

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小説の問題vol.59 「時代の逆風に耐えた作家と時代の波が産んだ作家と」 浅暮三文『殺しも鯖もMで始まる』・皆川博子『花闇』

小説の問題vol.59 「時代の逆風に耐えた作家と時代の波が産んだ作家と」 浅暮三文『殺しも鯖もMで始まる』・皆川博子『花闇』

『立川談志遺言大全集』(講談社)の購読を始めてしまった。読み出すと止まらないからやめようと思っていたのに。第十三巻『芸人論/鬼籍の名人』は文春文庫『談志楽屋噺』の再録だが、手に取ればつい読みふけってしまう。「落語」が大衆芸能として絶大なる力を持っていたころの空気が魅力的に伝わってくるからだ。 談志の著書とはまた別の理由で、小林信彦『コラムの逆襲...

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芸人本書く派列伝returns vo.24 山田ルイ53世『一発屋芸人列伝』『ヒキコモリ漂流記』

芸人本書く派列伝returns vo.24 山田ルイ53世『一発屋芸人列伝』『ヒキコモリ漂流記』

ちょうど五十になりました。 この一文をあるメロディに乗せて読んでしまうのは、たぶん私と同い年か、それより上の演芸ファンではないかと思う。さらに言えば、落語協会よりも落語芸術協会が贔屓だった人。 ベテラン、東京ボーイズの持ちネタの一節である。 東京ボーイズは旭五郎、菅六郎、仲八郎のトリオ芸人で、五郎がアコーディオン、六郎が三味線、八郎...

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小説の問題vol.58 「時代の風と時代の鏡」泡坂妻夫『飛奴』・司馬遼太郎『城をとる話』

小説の問題vol.58 「時代の風と時代の鏡」泡坂妻夫『飛奴』・司馬遼太郎『城をとる話』

ここ数年、本誌新年号の楽しみといえば泡坂妻夫の「夢裡庵先生捕物帳」だった。このシリーズは、新作短篇が一年一作年始のあたりにお目見え、という悠長なペースで刊行され、これまで随分長い時間をかけて短篇集が二冊編まれてきたのだが、二〇〇二年にはなぜか一月号、七月号と二作がパタパタ発表され、あれよあれよという間にシリーズが完結してしまっ...

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小説の問題VOL.57 「偶然という舞台の上で踊るもの」 小川勝巳『撓田村事件 iの遠近法的倒錯』・佐藤正午『ジャンプ』

小説の問題VOL.57 「偶然という舞台の上で踊るもの」 小川勝巳『撓田村事件 iの遠近法的倒錯』・佐藤正午『ジャンプ』

仕事とあたしのどっちが大事なの、と女性に言い寄られ、窮地に陥った経験を持つ男性は多いだろう。そういった厳しい質問に対して明確な答えを返すのは難しく、できれば先延ばしにしてしまいたいものである。佐藤正午『ジャンプ』は、答えを先延ばしにしたために永遠に回答の機会を失った男の物語である(オリジナル単行本は二〇〇〇年刊)。男性諸氏は我が身を振りかえり...

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小説の問題vol.56 「存在の耐えられないお安さ」 戸梶圭太『トカジノフ』『トカジャンゴ』・姫野カオルコ『整形美女』

小説の問題vol.56 「存在の耐えられないお安さ」 戸梶圭太『トカジノフ』『トカジャンゴ』・姫野カオルコ『整形美女』

※なぜか2002年10月号の「問題小説」が見当たらなかったので、1号飛ばして11月号の原稿を掲載する。 小糠三合持ったら婿には行くな、という言葉がある。つまり少しでも財産があるなら入り婿になどなるな、という戒めである。基本的にわが国の近世近代は男系社会だったからこういう差別的な表現がまかり通っていた。しかしながら「小糠三合」という表現は...

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小説の問題VOL.54 「本のお買い得度」 高橋克彦『ゴッホ殺人事件』・水木しげる『ほんまにオレはアホやろか

小説の問題VOL.54 「本のお買い得度」 高橋克彦『ゴッホ殺人事件』・水木しげる『ほんまにオレはアホやろか

書店の棚を眺めていたら、西原理恵子『サイバラ茸』(講談社)が出ていた。これは『恨ミシュラン』などの西原本から漫画だけを抜き出して編んだ本だ。もともと西原本については、文章をまったく読まず、漫画だけを読むという読者が多かったはず(私はそう)だから、これはとても合理的な本である。しかし既刊もある漫画を読むためだけに一冊千八百円の単行本か、と割りき...

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小説の問題vol.53 「コンビニエンスストアのある風景」 池永陽『コンビニ・ララバイ』・藤田宜永『転々』

小説の問題vol.53 「コンビニエンスストアのある風景」 池永陽『コンビニ・ララバイ』・藤田宜永『転々』

先月なかばに消しゴム版画家のナンシー関さんが急逝されてから、しばらく茫然とした日々を送っていた。この原稿を書いている七月七日は、本来氏の四十歳の誕生日であった。週刊誌上に連載されていた各コラムは、間違いなく後世に残るべき平成の名文である。各誌連載の未収録コラムの一日も早い単行本化を望みたいし、できれば現実の風俗事件と氏の書誌を対応させた全集が...

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小説の問題vol.52「嘘くさい日本の私」 奥田英朗『イン・ザ・プール』・菊地秀行『懐かしいあなたへ』

小説の問題vol.52「嘘くさい日本の私」 奥田英朗『イン・ザ・プール』・菊地秀行『懐かしいあなたへ』

子供だまし、といったら失礼かもしれないが、人の不安につけこんでものを売り付けるのだから、そう呼ばれても文句は言えない商売といえるだろう。 何がって? いわゆる「自分探し」のことである。自分の将来について漠然とした不安を感じるのは普通のことで、それを自分だけの特異例と錯覚するから余計不安になるのだ。原因不明の腹痛がずっと続いたら心配だろう...

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