翻訳ミステリーマストリード補遺(24/100) スタンリイ・エリン『特別料理』

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翻訳ミステリー大賞シンジケートの人気企画「必読!ミステリー塾」が最終コーナーを回ったのを記念して、勧進元である杉江松恋の「ひとこと」をこちらにも再掲する。興味を持っていただけたら、ぜひ「必読!ミステリー塾」の畠山志津佳・加藤篁両氏の読解もお試しあれ。

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「まるで『異色作家短編集』のような」が他に類例のない読み味の短編を喩える言葉として用いられた時期がありました。そのかみの〈奇妙な味〉もそうですが、単純にその魅力を解説できない作風のものを評するとき、これは重宝する表現です。敷衍して言えば「プロットを分解してもその魅力を取り出すことができない、文章表現の力が最大限に発揮された作家」の書くものを読んだときに、「わ、『異色作家短編集』で昔読んだことがある」と感じることが多いように思います。そんなわけで早川書房刊「異色作家短編集」からどれか一冊を入れることは『マストリード』を編んだ際に最初から決めていました。熟慮の末、里程標的作品集として名高い『特別料理』を選んだ次第です。

エリンの短編はほぼすべて邦訳されており、『特別料理』以外では『九時から五時までの男』をまず読むべき一冊としてお薦めします。女性を主人公にしたサスペンスの一祖形を作り出した「いつまでもねんねえじゃいられない」、優れた犯罪者小説「九時から五時までの男」など傑作揃いで、特に末尾の「倅の質問」は幕切れの鮮やかさからエリンの中でも三指に入る名作です。長篇作家としてのエリンは寡作でしたが、痛烈な社会諷刺を含む『第八の地獄』をはじめ、そちらにも駄作は一つもありません。特にお薦めしたいのは怪作『鏡よ、鏡』で、これは予備知識なしに読んでびっくりしていただきたい。ちなみに単行本刊行時は結末が袋とじになっていました。

『特別料理』を畠山・加藤両氏はこう読んだ。

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