翻訳ミステリーマストリード補遺(20/100) ビル・S・バリンジャー『歯と爪』

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翻訳ミステリー大賞シンジケートの人気企画「必読!ミステリー塾」が最終コーナーを回ったのを記念して、勧進元である杉江松恋の「ひとこと」をこちらにも再掲する。興味を持っていただけたら、ぜひ「必読!ミステリー塾」の畠山志津佳・加藤篁両氏の読解もお試しあれ。

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バリンジャーの名前を見て時計マークを思い出すオールドファンは多いのではないでしょうか。倒叙や裁判ものなどの変則的な作品を創元推理文庫では時計マークで括って収録していたのでした。もう一冊創元推理文庫に入っていたのが『赤毛の男の妻』で、これはもともと創元クライムクラブに入っていた作品の文庫化です。クライムクラブの植草甚一解説がそのまま入っているのですが、小説のフィニッシング・ストロークにあたる部分を思い切りネタばらししているので、ファンの間では地雷として有名なのでした。これから読まれる方はご注意を。そして『赤毛の男の妻』についての考察は『路地裏の迷宮踏査』所収のバリンジャー小論もぜひ参考にしていただければと思います。

一昔前では考えられないほどバリンジャーの翻訳も増えました。この作家についてはまだまだわかっていないことも多く、カットバックなどの技巧の側面からだけではなくて、内面についてももう少し掘り下げていく必要があると考えています。『歯と爪』もそうなのですがハヤカワ・ミステリ文庫に入った『消された時間』などを読むと、かなり熱い魂の持ち主であり、倫理観の真っ当さに胸を打たれることがあります。世評の高い1950年代だけではなく、60年代以降の作品も読んでみたいですね。

『歯と爪』を畠山・加藤両氏はこう読んだ。

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