街てくてく~古本屋と銭湯、ときどきビール 2018年10月「水曜どうでしょう」東京2泊3日70km追撃その1

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暮れなずむ多摩川

北海道テレビ(HTB)制作の「水曜どうでしょう」のことを最近ずっと考えている。別途そのわけは書くつもりなのだが、今日は「街てくてく」絡みの話である。

「どうでしょう」は大泉洋にたいへんなことをさせてそのリアクションを見せる、という流れを企画の入口にしている。必ずしも「たいへんなこと」が番組の主眼ではなくて、その企画をやっているうちに大のおとなががいつの間にか夢中になっていたり、あるいはどうでもいいことで最後まで口論をしていたりといった目標達成を度外視した過程のほうが大事なのである。基本的に旅番組である「どうでしょう」の中で、興味を惹かれた企画が一つあった。「東京2泊3日70km」である。

これは、いつも一方的に企画を押し付けられる大泉洋に「東京を楽しむ」という観点から、行ってみたい場所をいくつか選ばせる、という場面から始まるものだ。その結果大泉が選んだのは浅草(寄席で師匠たちを観てみたい)、六本木(クラブに行きたい)、お台場のフジテレビ(東京の芸能人にご挨拶したい)、日本武道館(いつかはここでコンサートをやるのが夢だから)、田園調布(僕は昔住んでいたから。一同をご招待しよう)、大泉学園(僕の土地だから。ディーラーに言われるがままに買ったのでまだ行ったことはないけど)という六ヶ所だった。選ばせておいて「では行こう、徒歩で」と企画の趣旨を明かし、驚愕する大泉の顔を見て楽しむ、というわけである。

東京の地理がご存じの方であれば、この中で大泉学園と田園調布が余計であることはすぐお判りいただけるだろう。他の四つが港区と千代田区と台東区で集中しているのに、この二か所は大田区と練馬区、しかも、神奈川と埼玉の県境と言ってもいい場所にあるからだ。大泉がネタとして言ったせいで自分の首を絞めてしまったわけである。この六ヶ所をすべて歩こうとすると、田園調布~お台場~六本木~武道館~浅草~大泉学園という順になり、タイトルの70kmが総距離を指している。

これを実際に歩けないか、と考えたわけである。

大病以来ほとんど長い距離を歩けていないので、無理をせずリハビリのつもりで行こうと思う。

以下は番組をご覧になっていることを前提で書く。ご覧になっていない方はちんぷんかんぷんだと思うが、まあ、そういう内容だったんだと思って読んでいただきたい。

出発点は羽田空港である。番組収録時の1998年から比べると、拡張事業の結果国内線第2ターミナルが開港したほか、地下への鉄道乗り入れが始まるなど、利便性は大いに向上した。しかし、変わらないこともある。羽田空港は徒歩で出入りするのにはまったく向いていない施設なのだ。番組では藤村ディレクターが道を間違えてしばらく迷った挙句、徒歩での脱出は不可能という結論に達し(実際は当時も道はあったらしいが)、当時国際線近くに存在した羽田東急ホテルへのシャトルバスを使って移動し、そこから再スタートすることになった。

笑って観ていたが他人事ではない。当時の出発点である第2ターミナルから徒歩で外に出ようとして、私も同じ道をたどっていることに気づいたのである。

第2ターミナルから徒歩で外に出られない。

正確に言うと、google mapが「ここを通れ」と言ってくる道、第1ターミナルの地下をくぐって国際線ターミナルに抜けるルートが、一般人の徒歩通行を禁じているために利用できない。おそらくは探せば他に道はあるのだろうが、それをやっている余裕はなかった。

仕方ない。バスに乗ろう。

同じ穴のむじなである。国内線ターミナルから国際線ターミナルへは無料の連絡バスが出ているのだ。ありがたく使わせてもらい、国際線ビルの前に降り立つ。道路標示に環8行きの文字も見える。やれやれ、仕切り直しである。

番組で第二の出発点となった羽田東急ホテルは、10年くらい前に取り壊された。東京オリンピックに向けて、同じ敷地に新しいホテルの建設中であるという。国際線ビル前から出ている道をたどると、その工事現場前を通る。人通りは少ないが、ちゃんと歩行者専用、自転車用といった表示もあり、通っていい道である。

たぶんこのへんが羽田東急ホテル跡地。「あの四人部屋」ももうない。

しばらく歩くと赤い鳥居が見えてくる。ここで弁天橋を渡って本土に上陸だ。調べたところ、番組ではこの後、しばらくまっすぐ歩いたらしく、次に表示されたのは大田区荻中という地名だった。蒲田女子高校があるあたりだ。迷う心配はないのでまっすぐ歩いていく。ロケのときは気の毒なことに雨に見舞われたようだが、空模様は問題なし。午後の降雨確立は30%と出ていたが、この分ならば歩けなくなるほどでもないだろう。

荻中を過ぎて、京急線の線路に突き当たる手前ぐらいに、鰻割烹すゞきという店がある。雑色駅の少し南ぐらいで、ここがロケで一行が鰻重を食べた店である。当時は「寿司うなぎ」と看板に書いてあったが、どうやら寿司は止めたらしい。外装も渋い灰色に塗り替えられていた。

たぶんこの踏切を渡っている

さらに進んでJRの線路を渡る。ここも映像に出て来るのでお手元にある方はご確認いただきたい。疑問があったのはその先で、一行は線路の前から直角に道を入って多摩川に向ったように見える。しかし、JRの線路と多摩川の関係からすると、90度おかしいのである。曲がると、多摩川ではなくてもう少し南のほうに行ってしまう。「線路の前から直角に入る道」を探してみようかと思ったが、ここはそれほどこだわるべきところではないと判断し、多摩川にぶつかるまで歩くことを選択した。地図を手に慣れない道をきた一行は、あちこちで曲がらず、行けるだけ真っ直ぐに歩くはずである。

結果としてはそれで正解であった。しばらく歩いて右に曲がると、存在しないはずの線路がまた見えた。JRの車両基地がここまで伸びていたのだ。この車両基地の前を曲がって入る、が正解だったのである。

JRの車両基地。この前の道から多摩川に向う。

当時はなかったと思われるマンションができていたりして手こずったが、ほどなく多摩川のほとりに出た。ここから田園調布まで、ひたすら川岸の遊歩道を行けばいい。

番組では雨が降り止まず、大泉とミスターの二人はずっと合羽を着たままだった。色違いだったので、曰く「出来の悪いロボットとくノ一が並んで歩いている」状態だ。川風に吹かれて歩くのは楽しいが、雨の中を行くのはさぞかし辛かったことだろう。途中にガス橋の下を通る。橋梁の下にガス管を抱えた、一粒で二度おいしい橋である。ここで雨宿りした際、ミスターの口から珍しく弱音が漏れた。おお、ここがあのガス橋下か、などと鑑賞しながら通り過ぎる。

番組ではこのガス橋を通り過ぎるとすぐ丸子橋になって田園調布は間近、という印象を受けるが、それは編集のマジックというもので、実際には2km以上ある。特にすることもないので黙って歩いていたら、なぜだか笑いがこみあげてきて止まらなくなった。そのままだと単なるおかしな人なので止めたいのだが、無理なのである。「意味もなくこんなところを歩いている自分」がひたすらおかしくなってしまったのだ。この笑いはなんだ、というか何やってんだこんなところで、と内省を繰り返しながら歩いていく。

ロケでは、一行は巨人軍グラウンドに到達した後で河川敷を後にする。現在は巨人軍グラウンドではなくなり、一般に開放される施設となっているため、一行が曲がった地点がどこなのか確認できなかった。わからないので、田園調布駅に向かう道の一つが出てきたところで右に曲がった。これはたぶん早すぎで、実際にはもう少し北に行ってからのほうがよかったと思う。田園調布は初めから計画整備された街なので、道が駅から放射状になっている。横に移動しようとすると、その弧の上を移動しなければならなくなるので、手間がかかるのだ。大泉が法螺話をした公園を探しきれず、東急東横線の田園調布駅に着いてしまう。やむをえない。一応、一つめのゴールである。

ロケ隊はこのあと、駅を通過して南下し、中原街道に合流している(映像内の地図で確認できる)。それをひたすら北上し、雪が谷大塚、旗の台と経てJR五反田駅に到着、さらに高輪プリンスホテルに投宿して一日目のゴールとなるのである。

残念ながら、私の追跡一日目はそこまで至ることができなかった。中原街道に向う途中にある、古書田園りぶらりあが営業していたからである。りぶらりあがやっていたのだから仕方ない。ここは文学関係の棚が異常に充実しているのだ。ちょうど日本文学関係の仕事で調べたいことがあったもので、店内をうろうろしている間に日没どころか、とっぷりと暗くなってしまっていた。やむをえず、りぶらりあを本日のゴールとする。西本晃二『落語『死神』の世界』(青蛙房)を購入、田園調布を後にした。

これで終わりではなく、また続くのである。とりあえず、ここまで。

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